【自動車業界8社の4~6月期決算】北米で売れるメーカーは最終利益過去最高、新興国の販売比重が高いメーカーは最終減益

2015年08月11日 07:46

Toyota TNGA

8月4日、トヨタを最後に自動車業界大手8社の4~6月期決算が出揃った。

 8月4日、トヨタを最後に自動車業界大手8社の4~6月期決算が出揃った。国内販売が消費増税後の低迷からなかなか上向かない中、海外の主要販売市場が北米市場のトヨタ、日産、富士重工は好調で最終利益が4~6月期としては過去最高を記録した一方、海外ではアジアなど新興国の販売比重が高いマツダ、スズキ、三菱は最終減益になり、「主に海外のどこで売っているか」で明暗が大きく分かれた決算だった。とはいえ、利益額世界一のトヨタでも世界販売台数は5.7%減で、中国など新興国の景気減速が懸念される中、為替の円安効果で利益をどれだけ確保できるかが、通期の業績を左右しそうだ。

 ■北米で稼ぐトヨタ、日産、富士重工は最高益

 2015年3月期の実績は、トヨタ<7203>は売上高9.3%増、営業利益9.1%増、税引前四半期純利益9.5%増、最終四半期純利益10.0%増の増収増益。北米での販売は依然好調で「レクサス」など利益率が高い高級車種が売れたが、日本国内やアジアの販売台数が前年実績を下回り、ヨーロッパや中近東でも苦戦。販売台数は-5.7%だった。1~6月累計の世界販売台数は前年同期比1万1000台減の250万2000台でフォルクスワーゲンに約5万台及ばなかった。それでも好調な金融事業と為替のドル円の円安効果のおかげで増益幅が拡大して最終利益は過去最高益を更新。フォルクスワーゲンより77.4%も多く、ダントツの世界一だった。

 日産<7201>は売上高17.6%増、営業利益58.0%増、経常利益45.2%増、四半期純利益36.3%増の2ケタ増収増益。純利益は4~6月期では過去最高になった。期中の世界販売台数は129万4000台で約4%増え過去最高。日本国内は約10%減だったが海外は全地域プラスで、特に世界販売の約4割を占める北米市場が約9%増だったことが全体の業績に大きく寄与した。北米では利益率が高い高級車SUVが好調だった。採算面ではコスト削減効果が426億円、円安効果が320億円、それぞれ増益に寄与していた。

 ホンダ<7267>は売上収益15.5%増、営業利益16.4%増、税引前利益15.9%増、最終四半期純利益19.6%増の2ケタ増収増益。国内販売台数は前年同期比で27%減ったが、世界販売台数の4割強を占める北米の販売台数は11%増で、世界販売台数は115万台と全円同期比で約5%伸びた。タカタ製エアバッグのリコール問題で計上した品質関連費用増を増収効果、円安の為替差益がカバーして2ケタの営業増益になった。

 マツダ<7261>は売上高14.2%増、営業利益5.4%減、経常利益0.1%増。四半期純利益は24.8%減で増収、最終2ケタ減益。国内では新型「ロードスター」「CX-3」「デミオ」の投入、北米ではSUVの「CX-5」改良モデルの投入により、日本を含むグローバル販売台数は約16%増の37万台と2ケタ伸び、売上も2ケタの増収だった。しかし、新型車投入に伴う販促費用が増加し、強みを持つヨーロッパ市場、ロシア市場ではユーロやルーブルの通貨安が対ドルの円安効果を打ち消して為替差損57億円が発生し、タイではバーツ高による生産・販売コストの増加がみられ、本格稼働した海外工場の原価償却費の計上、業績改善による繰越欠損金の解消による法人税負担の大幅増などもあいまって利益が圧迫され、営業減益、最終減益になった。

 富士重工<7270>は売上高29.0%増、営業利益70.5%増、経常利益61.4%増、四半期純利益61.1%増の大幅増収増益。純利益841億円は4~6月期では過去最高だった。世界販売台数の7割弱を占める北米では利益率が高いSUV「アウトバック」が好調で増益率61%。タカタ製エアバッグのリコールにからんで約50億円の品質関連費用を計上したが、約500億円にふくらんだ円安効果で十分カバーできている。

 三菱自動車<7211>は売上高2.6%減、営業利益39.8%減、経常利益26.1%減、四半期純利益14.8%減の減収減益決算。「軽」の比率が高い日本国内では軽自動車増税の影響で販売台数が約4割減。海外は25%増の北米やヨーロッパは健闘したが、販売台数の多い東南アジアはタイやインドネシアの景気減速で伸び悩み、世界販売台数は約8%減の約29万台にとどまった。利益率が高いSUVタイプのPHV(プラグイン・ハイブリッド車)が新モデルの発売直前で販売が伸びなかったのも響いた。ロシアルーブル安、ユーロ安、生産拠点タイのバーツ高の影響を受けて全体で7億円の為替差損になったことも減益要因だった。

 スズキ<7269>は売上高8.8%増、営業利益8.3%増、経常利益5.1%増、四半期純利益15.5%減の増収、最終減益。アジアの売上高が25%増となり、軽自動車税の増税で売上高17%減の日本、18%増のヨーロッパをしのぐ増収、増益で、特に経済成長が続くインドでは自動車需要が拡大し、インド子会社のマルチ・スズキの販売台数が13%増加した。20億円のコストダウン効果とともに、対ドル、対インドルピーの為替レートの円安も68億円、増益に寄与している。最終減益の主因はマルチ・スズキの少数株主への利益流出によるものだった。

 ダイハツ工業<7262>は売上高4.0%減、営業利益35.7%減、経常利益29.8%減、四半期純利益60.9%減の大幅減収減益で、相変わらず「トヨタグループのお荷物」。日本国内は税額1.5倍の4月の軽自動車税の増税に直撃されて軽自動車の販売台数は20%減で、新車開発コストの増加が利益を下押しした。マレーシアなどの海外事業は堅調だった。

 ■ユーロや新興国の通貨安は織り込み済み

 2016年3月期の通期業績見通しは、トヨタは4~6月期の決算発表に合わせて上方修正し、売上高は1.0%増から2.1%増の27兆8000億円に修正。営業利益は1.8%増で据え置き。税引前当期純利益は2.7%増から3.0%増の2兆9800億円に修正。最終当期純利益は3.5%増で据え置いた。3期連続の最高益見通しだが予想年間配当は未定のまま修正なし。4~6月期の最終利益の通期見通しに対する進捗率は28.7%だった。

 ダイハツ工業、日野自動車を含めたトヨタグループ全体の世界販売台数を当初計画から3万台引き下げて前年比1%減の1012万台に、世界生産台数を当初計画から5000台引き下げて1%減の1020万台に、それぞれ下方修正した。国内販売台数は3万5000台増、国内生産台数は8万台増、海外販売台数は6万5000台減、海外生産台数は8万4000台減に見通しを修正している。中国、東南アジア、ロシアなど新興国の景気不透明感がその背景にある。新型「プリウス」などクルマづくりの新手法「TNGA」を活かした新車の投入が続くので、研究開発費、設備投資の増加が利益の下押し要因になる。それを販売減の食い止めと為替差益でどれだけカバーできるかが、通期業績のポイントになりそうだ。

 日産は売上高6.4%増、営業利益14.5%増、経常利益10.2%増、当期純利益6.0%増の増収増益を見込む通期業績見通しも、前期比9円増の42円の予想年間配当も修正はなかった。4~6月期の最終利益の通期見通しに対する進捗率は31.5%で25%をオーバーしているが、中国の4~6月の販売台数が0.5%増で1~3月の11%増から急減速しており、この先も景気が減速する懸念がある中国での販売動向が不透明なので上方修正はしなかったという。

 ホンダは通期業績見通しの売上収益8.8%増、営業利益2.1%増、税引前利益0.2%減、最終当期利益3.1%増も、予想年間配当の88円も修正はなかった。4~6月期の最終利益の通期見通しに対する進捗率は35.4%だった。SUV「HR-V」が好調で「元気が出てきた」(岩村哲夫副社長)という北米市場には下半期、小型車「シビック」を新たに投入する。為替の円安基調が続けば今後、業績が上方修正される可能性がある。

 マツダは4~6月期の業績はふるわなかったが、売上高7.1%増、営業利益3.5%増、経常利益1.1%増、当期純利益11.8%減の増収、最終減益の通期業績見通しも、予想年間配当30円も修正していない。4~6月期の通期見通しに対する進捗率は、世界販売台数は24.8%、営業利益は25.3%、最終利益は26.2%で、決して悪くはなかった。ユーロやルーブルの通貨安は通期見通しにもすでに織り込まれている。

 富士重工は売上高5.3%増、営業利益18.9%増、経常利益25.7%増、当期純利益28.7%増の通期業績見通しに修正はなかった。予想年間配当は未定のまま。4~6月期の最終利益の通期見通しに対する進捗率は24.9%だった。アメリカ工場の生産能力を2016年末に39万4000台まで引き上げ、世界生産台数は100万台を超える見込み。

 三菱自動車は売上高4.6%増、営業利益8.0%減、経常利益14.3%減、当期純利益15.4%減の通期業績見通し、16円の予想年間配当に修正はなかった。4~6月期の最終利益の通期見通しに対する進捗率は23.9%だった。アメリカでの自動車生産から撤退し岡崎工場に集約するが、相川哲郎社長は「東南アジアの自動車販売は必ず回復すると読んでいる。インドネシア工場など東南アジア向けの投資は計画通り進める」と発言している。

 スズキは売上高2.8%増、営業利益5.9%増、経常利益2.9%増、当期純利益13.6%増の通期業績見通し、27円の予想年間配当に修正はなかった。4~6月期の最終利益の通期見通しに対する進捗率は28.8%だった。日本国内は軽自動車税の増税の影響で15%減、海外は11%増の見通し。海外の増収、増益の軸は「虎の子」のインド。それに目をつけた「物言う株主」サード・ポイントによるスズキ株取得が明らかになった。

 ダイハツ工業は売上高2.6%減、営業利益9.6%減、経常利益13.5%減、当期純利益12.0%減で2期連続減収減益の通期業績予想は修正していない。予想年間配当も未定で変わらない。4~6月期の最終利益の通期見通しに対する進捗率は9.0%にすぎないが下方修正はしなかった。別所則英上級執行役員は「軽は市場全体が落ち込んでいるが、台数の落ち込みはほぼ想定の範囲内。6月から販売は回復傾向で、9月に新商品を投入するなどして目標を達成したい」と強気の姿勢を崩さない。(編集担当:寺尾淳)