7月31日、電力大手3社(東京電力<9501>、中部電力<9502>、関西電力<9503>)の4~6月期(第1四半期)決算が出揃った。経常損益、四半期純損益は揃って黒字化し、全国の電力10社を見渡しても、四半期純損益が赤字なのは季節的な要因があった沖縄電力<9511>だけだった。
全国で原発はまだ1機も再稼働しなかったが、火力発電用燃料の主力の液化天然ガス(LNG)価格が前年同期のおよそ半値まで下落し、燃料費は全10社ベースで約34%減になった。東京電力、中部電力、関西電力とも前年同期比で約4割減っている。本来なら燃料価格を電気料金に反映させる燃料費調整制度により料金収入は減少するが、燃料費の下落と電気料金の調整には最大で5ヵ月のタイムラグがあるため、4~6月期に限って言えば燃料費負担の軽減が業績に大きく寄与した。設備の修繕費のようなコストの抑制効果も出て利益をしっかり確保し、東京電力、中部電力は、経常利益が4~6月期としては過去最高を記録している。
■燃料費の下落が効いて利益が揃って黒字化
4~6月期の実績は、東京電力は売上高1.1%減、営業利益222.9%増(約3.2倍)、経常利益307.8%増(約4倍)、四半期純損益は前年同期の1732億円の赤字から2033億円の黒字に転換した。
中部電力は売上高2.9%増、営業利益495.8%増(約5.9倍)、経常利益808.0%増(約9倍)、四半期純利益703.0%増(約8倍)と前年同期比で利益を大きく伸ばした。
関西電力は売上高1.0%増、営業損益は前年同期の398億円の赤字から837億円の黒字に転換し、経常損益は前年同期の322億円の赤字から807億円の黒字に転換し、四半期純損益は前年同期の290億円の赤字から529億円の黒字に転換した。6月に家庭向けの電気料金を再値上げしたことで赤字を脱し、4年ぶりの経常黒字になった。
■今後、燃料費調整と修繕費が利益を圧迫する
2016年3月期の通期業績見通しは、東京電力は全機停止している柏崎刈羽原発の運転計画を示せないため未定。年間配当予想は前期と同じく無配の見通し。中部電力は売上高7.8%減、営業利益49.3%増、経常利益115.9%増(約2.1倍)、当期純利益132.0%増(約2.3倍)、年間配当予想は前期から10円増配の20円で、修正はなかった。関西電力は供給力の見通しが不透明で下期の販売電力量に及ぼす節電等の影響が見通せないことから未定。年間配当予想も未定。売上高1兆6700億円(0.5%減)、営業利益1500億円、経常利益1400億円、純利益930億円の中間期決算見通しと無配の中間配当予想は出している。
電力各社は今後もLNGなどの燃料安が続けば「燃料費調整制度」で電気料金が下落していくため、燃料安による利益押し上げ効果は薄れていく。また、燃料安がこの先も続く保証はなく、もし燃料費が反転上昇したら4~6月期とは正反対に、タイムラグによって利益が一時的に大きく押し下げられる。また、夏場の猛暑で火力発電所はほぼフル稼働しており、修繕を先送りしたツケが秋以降に修繕コストにはね返り、通期の利益を圧迫することも考えられる。
LNG火力と比較すると発電コストが約25%低い原子力発電所を再稼働すれば収益改善への効果は大きいが、国民世論の風当たりが強く、再稼働の日程のメドが立っているのは8月10日以降を予定する九州電力<9508>川内原発1号機だけ。かといって電気料金を値上げすると、来年4月に予定されている電力小売自由化を控えて競争上不利になる。
現状の電気料金のまま、火力発電に全面的に頼る状況が当分続くとすれば、黒字を維持するには電力各社はさらなるコストの削減が必要になる。4~6月期決算が好転しても、通期の業績は決して楽観視はできない。(編集担当:寺尾淳)