8月4日、電子部品大手7社の4~6月期(第1四半期)決算が出揃った。前期に引き続き、自動車の電装化とスマホ、タブレット端末の高機能化、販売増加に支えられて「自動車とスマホ」向けの電子部品の売上が非常に好調で、為替の円安が利益をさらに押し上げるという状況も変わらない。このセクターは直近でM&Aのニュースが相次いでいるが、2016年3月期通期では、中国の景気減速をしのぎ、増収増益の業績見通しどおりに着地できるかが焦点になりそうだ。
■スマホはiPhone向けも中国製向けも、売上、利益とも高水準が続き業績に寄与
4~6月期の実績は、日本電産<6594>は売上高18.7%増、営業利益24.1%増、最終四半期純利益37.7%増の2ケタ増収増益。最終利益241億円を記録した。HDD用モーターの販売は減少したが、運転支援システムの車載カメラやセンサーなど自動車向けや、小型振動装置などスマホ向けは依然好調で「自動車とスマホ」強し。円安効果もあって利益が積み上がった。
京セラ<6971>は売上高1.4%増、営業利益73.5%増、四半期純利益62.2%増の大幅増益。国内で携帯電話の販売が落ち込み機器事業は約7%の減収だったが、コンデンサーやコネクターが好調なスマホ向け部品の分野は営業利益が約3割増で、自動車向け電子部品も増収だった。最終利益は、約120億円の資産売却益を計上した効果も出て315億円を記録した。
ローム<6963>は売上高7.4%増、営業利益24.7%増、経常利益89.4%増、四半期純利益70.8%増の増収2ケタ増益。最終利益115億円を記録した。LSI事業は約27%の営業減益だったが、スマホ向け、自動車の電装品向けの半導体が好調で、半導体素子事業は前年同期比約56%の営業増益になった。「スマホと自動車」だけでなく、事務機器向けトランジスタのような以前から強みを持つ分野も伸びている。円安による為替差益が売上ベースで約100億円あり、輸出採算が大きく改善した。
アルプス電気<6770>は売上高16.1%増、営業利益118.8%増(約2.2倍)、経常利益129.3%増(約2.3倍)、四半期純利益374.1%増(約4.7倍)の2ケタ増収、3ケタ増益。最終利益86億円を記録した。アップルのiPhone用など有力スマホメーカーに納めているカメラの手ぶれ補正機器が非常に好調で収益を押し上げた。センサーなど自動車用電子部品の販売も高水準が続いている。
日東電工<6988>は売上収益9.3%増、営業利益37.6%増、税引き前利益39.3%増、四半期利益54.3%増、最終四半期純利益50.1%増の2ケタ増益。最終利益185億円を記録した。液晶用偏光板やタッチパネル用導電フィルムなどスマホ向けの高価格帯の製品が好調で、利益を押し上げた。
村田製作所<6981>は売上高28.8%増、営業利益73.3%増、税引き前四半期純利益74.9%増、最終四半期純利益72.9%増という2ケタの大幅増収増益。最終利益465億円を記録した。「スマホと自動車」向けの電子部品が快調な上に為替の円安効果も利益を押し上げた。スマホ向けで特に伸びたのはコンデンサーやフィルター、LTE通信モジュールなどの通信用部品の分野で、その売上は57%増加した。アップルのiPhone向けも中国製スマホ向けも大きく伸びており、中国メーカー向けの売上はほぼ倍増している。
TDK<6762>は売上高17.7%増、営業利益89.1%増、税引き前四半期純利益82.9%増、最終四半期純利益127.7%増(約2.3倍)という2ケタ増収、大幅増益。営業利益181億円を記録した。HDD用磁気ヘッドはパソコン需要の低迷で不振だったが、スマホ向けは高周波部品やコンデンサー、2次電池が伸び、自動車向けは電装部品のセンサーやコンデンサーが伸びて業績を牽引。為替の円安も増益に寄与した。
■中国製スマホ向けは部品の高付加価値化で景気減速による減産分を吸収できるか?
2016年3月期の通期業績見通しは、日本電産は売上高11.8%増、営業利益16.9%増、最終当期純利益は18.1%増で3期連続の最高益で修正はなかった。前期比10円増の80円の予想年間配当も変わらず。4~6月期最終利益の通期見通しに対する進捗率は26.8%だった。今期中に衝突防止システムなど先進運転支援システム(ADAS)に代表される車載製品の売上高がHDDモーターのそれを逆転して事業の柱になり、「ビジネスポートフォリオ転換(主役交代)」を果たすことは確実。この分野のM&Aとして7月、インドネシアのガラスレンズ加工会社、ナガタオプトインドネシアを子会社の日本電産サンキョーを通じて買収することで合意した。同社には温度変化に強いガラスレンズの技術があり、車載用カメラの精度向上への貢献が期待される。2020年度までに国内外でのM&Aで売上高を5000億円上積みする方針。
京セラは売上高4.8%増、営業利益71.3%増、当期純利益3.6%増の通期業績見通しも、前期と同じ100円の予想年間配当も修正はなかった。4~6月期最終利益の通期見通しに対する進捗率は26.3%で社内計画は上回っているという。スマホの世界最大の販売市場、中国の景気減速に伴って部品の供給に陰りが出る懸念があるが、山口悟郎社長は「上位メーカー向けの高機能部品の販売は好調が続いている」と話している。7月30日には半導体生産事業進出を目的にパワー半導体メーカー、日本インターに対する株式公開買い付け(TOB)の実施を発表するなど、積極的なM&A戦略を進めている。
ロームは売上高7.0%増、営業利益8.2%増、経常利益32.5%減、当期純利益33.8%減の通期業績見通しも、前期比据え置きの130円の予想年間配当も修正していない。4~6月期の通期見通しに対する進捗率は、経常利益は39.9%、最終利益は38.5%でともに25%を大きくオーバーしたが、減益見通しの通期業績の上方修正は今回は見送っている。想定為替レートが1ドル=115円なので、現状のレートが続けば上方修正の可能性は十分ある。7月22日にデジタル電源制御ICの技術を持つアイルランドのベンチャー企業パワーベーションを完全子会社化するなど、M&Aを積極化させている。
アルプス電気は通期業績見通しのうち売上高2.5%増、営業利益1.8%増、経常利益5.4%減は変わらないが、子会社のアルパインが保有する中国のソフト会社ニューソフト株の売却で約50億円の特別利益を計上できる見込みになり、連結ベースの当期純利益の通期見通しを5.1%増の365億円から19.5%増の415億円に上方修正した。4~6月期の四半期純利益の通期見通しに対する進捗率は23.6%から修正後は20.8%に変わった。予想年間配当の前期比5円増の20円は修正なし。9月発売のアップルの新型iPhoneの売れ行き次第では、本業の部分での好調を反映した業績上方修正もありうる。
日東電工は売上収益5.4%増、営業利益12.4%増、税引き前利益13.3%増、当期利益13.7%増、最終当期純利益13.9%増の増収増益の通期業績見通し、前期比10円増の130円の予想年間配当とも修正はなかった。4~6月期最終利益の通期見通しに対する進捗率は20.9%だった。次のターゲット、自動車向け製品の強化を目的にドイツのミュンヘンに開発・販売拠点を設置し、ワイヤハーネス用保護テープを生産する台湾の新工場は10月から稼働する。戦略投資枠1500億円を設定してM&Aも積極化する方針。一方、6月から北海道大学病院で肝硬変患者向け新型バイオ医薬品の臨床試験を始めている。
村田製作所は売上高11.2%増、営業利益16.5%増、税引き前当期純利益5.7%増、最終当期純利益9.1%増の通期業績見通し、前期比20円増の200円の予想年間配当に修正はなかった。4~6月期最終利益の通期見通しに対する進捗率は25.4%だった。LTEなどモバイル通信の高速化が急速に進む中国ではスマホの高機能化で1台あたりの部品単価が上昇しているので、この先、景気減速による多少の減産があっても利益はしっかり確保でき、工作機械などとは事情が異なるという。
TDKは売上高9.0%増、営業利益31.1%増、税引き前当期純利益27.5%増、最終当期純利益31.5%増の通期業績見通しも、前期比30円増の120円とした予想年間配当も修正はなかった。4~6月期最終利益の通期見通しに対する進捗率は20.1%。リチウムイオン電池の増産が続くほか、もしスマホ向け需要が中国の景気減速で鈍化しても、自動車向け電子部品の販売拡大で補える見込み。(編集担当:寺尾淳)