【電力大手の4~9月期決算】収益が火力の燃料費に左右されるうちに、電力小売の自由化が来年4月に迫る

2015年11月02日 07:33

 10月30日、電力大手3社(東京電力<9501>、中部電力<9502>、関西電力<9503>)の4~9月期(第2四半期/中間期)決算が出揃った。

 電力10社は4~6月期が最終赤字だった沖縄電力<9511>も黒字化し、東日本大震災後で初めて全社が最終黒字になった。九州電力<9508>は8月に川内原発1号機が再稼働したことで火力発電所の燃料費が減少し約100億円の利益改善につながった。LNG火力と比較すると原発の発電コストは約25%低い(変動費ベース)。10月の川内原発2号機の再稼働によってさらなる利益改善が見込まれ、瓜生道明社長は「通期で500億円の最終利益を確保できる」と話している。四国電力<9507>伊方原発3号機も再稼働の準備が進んでいる。

 火力発電では、燃料の主力の液化天然ガス(LNG)価格が前年同期のおよそ4割減で、燃料費は全10社ベースで約33%減になった。電力大手3社の原発は再稼働のメドが立っていないが、その代替電源のLNG火力発電への依存度が高いためLNG価格低下の恩恵を受け、福島第一原発の事故で原子力損害賠償費の負担が重い東京電力の最終利益を除けば、収益性は大きく改善している。

 ■燃料費減と値上げがダブルで効いた関西電力

 4~9月期の実績は、東京電力は売上高6.2%減、営業利益35.9%増、経常利益50.4%増、四半期純利益は3.7%減だった。中間配当は無配。経常利益3651億円は4~9月期としては過去最高。燃料費は前年同期比で3割以上減っており、特に主力電源LNG火力発電の燃料費低下が大きく効いている。最終利益のマイナスは原子力損害賠償費4652億円を特別損失に計上しているため。

 中部電力は売上高2.9%減、営業利益227.3%増(約3.2倍)、経常利益446.8%増(約5.4倍)、四半期純利益224.8%増(約3.2倍)と、前年同期比で利益が大きく伸びた。中間配当は10円で、前年同期の無配から復配した。

 関西電力は売上高2.2%減、営業利益は41.1倍、経常利益は90.9倍、四半期純利益は42.4倍。しかし中間配当は無配。燃料費の約35%減少だけでなく、6月に家庭向けの電気料金を再値上げした効果が経常利益ベースで490億円も出ており、利益が前年同期比で劇的に改善している。

 ■中部電力は通期業績見通しを大幅上方修正

 2016年3月期の通期業績見通しは、東京電力は全機停止している柏崎刈羽原発の運転計画を示せないために未定。年間配当予想は前期と同じく無配の見通し。

 中部電力は売上高を300億円上積みして前年比7.8%減から6.9%減に、営業利益を700億円上積みして49.3%増から114.6%増(2.1倍)に、経常利益を700億円上積みして115.9%増から232.2%増(約3.3倍)に、当期純利益を500億円上積みして132.0%増から260.9%増(約3.6倍)に、それぞれ上方修正した。期末配当予想は前期と同じ10円。年間配当予想は前期から10円増配して20円で、修正はなかった。

 関西電力は前期比1.4%減という売上高見通しだけを公表。利益見通しは供給力の見通しが不透明で下期の販売電力量に及ぼす節電等の影響が見通せないことから未定。期末配当予想、年間配当予想も未定となっている(前期は無配)。

 電力各社の今期下半期は、「燃料費調整制度」によりLNG価格など燃料費の減少がタイムラグを伴って徐々に電気料金に反映されていくため、燃料費の利益押し上げ効果は薄れていく見通し。しかし電気料金の値上げをほのめかせば、来年4月の電力小売自由化を控えて競争上不利になる。たとえば通期見通しを上方修正した中部電力はドル箱の愛知、岐阜、三重の3県で、家庭向けの電力供給で8万世帯供給が目標の東邦ガス<9533>と競合することになった。電力大手3社は火力発電に全面的に頼る状況が当分続き、電気料金の値上げも難しければ、黒字を維持するにはさらなるコストの削減が必要になる。(編集担当:寺尾淳)