矢野経済研究所が2013年に発表したウェアラブル端末の市場規模の推移と予測によると、2016年から17年にかけて、ウェアラブル端末が急成長を遂げると見込んでいる。同社だけでなく、他社の市場予測の多くも、ウェアラブル端末の需要が16年度を境に拡大傾向とみている。いよいよウェアラブル端末の本格的な普及が始まるのだろうか。
現在、市場に出回っているウェアラブル端末は、スマートフォンやタブレットの機能を簡易化し、形を変えただけのようなものが目立つ。スマートフォンとの明確な差別化ができているとはいい難いのが現状ではないだろうか。もしくは、スマートフォンなどのオプション的な認識の人も多いだろう。実際、「スマートフォンと連携させて」というようなセールスコピーもよく目にする。しかし、ウェアラブル端末の一番のメリットは「両手が自由になる」という点にある。つまり、スマートフォンのオプションではなく、それを身に着ける人間そのもののオプションという感覚であるべきだろう。
これについては今年、大林組<1802>とNTTコミュニケーションズが大変興味深い実証実験を行っている。以前より、ウェアラブル端末はバイタルケアやヘルスケアの分野での活用が期待されているが、今回、両社が行ったのは、建設現場の作業員が着用する作業着に心電や心拍、体の傾きなどを計測できる生体センサーを取り付け、作業員の体調や疲労具合をNTTコミュニケーションのクラウドを通じて、タブレット端末などにリアルタイムに表示するというものだ。建設現場では、とくに夏場の熱中症が深刻化しており、実用化されれば、作業員の命を守る効果的な対策として期待できそうだ。
また、東芝情報システムと川崎タクシーは、ウェアラブル端末の生体センサーで取得したデータなどから走行中の運転手の眠気や疲労度を推定し、休憩などを促すシステムの試行プロジェクトを実施している。また、福祉の現場では高齢者の見守りサービスへの活用など、用途が広がっている。
一方、そんなウェアラブル端末の普及に伴って求められているのが、毎日24時間のデータをストレスなくセンシングするための、いくつかの基本的な性能の向上だ。まず、電池寿命が長いこと。そして、年単位でメンテナンスフリーであること。さらに文字盤やメガネレンズ部などの小さな表示画面でも、いかに見やすいか、だ。
例えば、ローム<6963>のグループ会社であるラピスセミコンダクタは2015年11月、最大2048ドットの表示パネル駆動を可能とするLCDドライバを備えた、16bitのローパワーマイコンを発表した。同製品は、ウェアラブル端末のパネル表示量を同社従来品より33%も向上させ、画面上の表示をより高繊細に表現することが可能となる。 たかが画面の見易さだが、小さな画面にたくさんの情報量が必要なウェアラブル端末にとって、ユーザーの印象は大きく変わるだろう。
さらには、春にはAppleが新型Apple Watchの発表を行うのではないかとの噂もある。2016年、ウェアラブル端末をとりまく市場は確かに活気づきそうだ。(編集担当:藤原伊織)