もともとJALと比べて国内路線が強いとされていたANA。訪日外国人の急増の恩恵はJALよりも少なかったようだ。JALが国交省の監視下にあるうちにできるだけ水をあけておきたいところだが、中国をはじめ国際線をめぐる情勢は不透明だ。
2014年に国際線座席キロ数(運航座席数×飛行距離)でANA(全日本空輸)〈9202〉がJAL(日本航空)〈9201〉を上回り、航空業界最大手の座についた。ANAはことしのワールド・エアライン・アワードで日系トップの7位に入り、21位のJALに水をあけた。このランキングは航空会社の調査・格付けなどを行うスカイトラックス社が毎年行っていて、業務渡航などで企業がエアラインを選定する際に参考にされるなど、注目度が高いものだ。
このように名実ともに国内最大手となったANA。9月中間決算では売上高や営業利益が過去最高になり、好調は続いているようだ。成田空港での国際線どうしの乗り継ぎを便利にしたことや、訪日客の増加などで国際線の数字を押し上げ、北陸新幹線の延伸などで懸念された国内線を補ったかたちとなった。売上高は前年比6.6%増の9112億円、営業利益は49.8%増の867億円。最終的なもうけを示す純利益は50.9%増の539億円という数字を記録した。また、原油価格が値下がりしたことなどで燃料費負担が軽くなり、利益が約190億円増えた。新規開設は東京とヒューストン、クアラルンプール、シドニー、ブリュッセルをつなぐ積極4路線。貨物輸送は国際線貨物収入が583億円(前年同期比2.4%減)、国内線貨物収入は155億円(3.7%減)。日本発貨物や欧米発日本向け貨物が伸び悩んだことが要因と考えられる。
一方、追いかける立場となったJAL。こちらは4-9月期の連結決算だが、前年同期比28.7%増の1033億9800万円で、過去最高を記録した。売上高は前年同期比.6%増の6879億円、営業利益が29.2%増の1199億円、経常利益は33.7%増の1226億4000万円で増収増益となった。こちらも営業費用を3.9%減の5679億円、燃油費が19.1%減の1225億円に抑えられたことなどが良い結果につながった。しかし貨物事業はANAと同じく減収。国際線貨物はレベニューマネジメントを強化し売上高は289億円(前年同期比0.6%増)だったものの、国内線貨物の売上高が117億円(同4.4%減)となった。新規路線はJAL東京-上海、広州、ダラスの3路線にとどめた。
続いて最新データとなる11月の利用実績を見てみよう。ANAの国際線旅客数は前年同月比11.1%増の63万7696人、座席供給量を示す有効座席キロは13.2%増の45億9193万1000座席キロ、有償旅客を運んだ距離を示す有償旅客キロは17.3%増の33億702万2000旅客キロ、座席利用率は2.5ポイント上昇し72.0%だった。
JALの国際線は旅客数が前年同月比2.9%増の64万2168人、有効座席キロは1.7%増の39億3471万4000座席キロ、有償旅客キロは6.3%増の30億7914万3000人キロ、座席利用率は3.5ポイント上昇し78.3%と、ANAより効率よく運行できていることがうかがえる。
そして通期の業績見通し。ANAは通期の業績見通しを現在も据え置いている。中国の景気減速の影響で、中国路線の座席利用率を保てるか不透明なためとしている。売上高は前期から989億円増の1兆7000億円、営業利益が190億円増の850億円、経常利益が120億円増の550億円、純利益が161億円増の350億円となる見込み。
JALは通期業績見通しを上方修正した。燃料コストの減少や国際線が想定以上となる見込みなどからだ。売上高は前回予想より190億円増の1兆3470億円、営業利益が320億円増の2040億円、経常利益が330億円増の2020億円、純利益が280億円増の1720億円となる見込み。通期見通しも従来の減益予想から前年同期比15.4%増の1720億円に修正した。
これらの実績や見通しからも分かるように、JALは10年の倒産からすでに「完全復活」しつつある。「破綻して以降、景気のいいときに稼ぐよりも不景気時に赤字を出さない戦略にかじを切った」とはJALの関係者の談だが、必要以上に拡大しないその展開にはその言葉通りの慎重さがうかがえる。そして、発展途上であるがゆえの顧客サービスの向上を体感している利用者も多いという。最大手としてANAの独走…とは決してならず、堅調JALとの差が縮まりつつある2015年だった。(編集担当:久保田雄城)