いよいよ、水素社会の実現が現実味を帯びてきた。経済産業省がとりまとめた「水素・燃料電池戦略ロードマップ」によると、水素・燃料電池関連の日本国内における市場規模は、2030年に約1兆円、2050年に約8兆円に拡大する見通しだ。
日本は現在、燃料電池先進国として世界でもトップクラスであり、中でも水素を燃料とする家庭用燃料電池「エネファーム」に至っては、世界に先駆けて商品化、同製品の国内設置数は既に10万台を突破している。この数字は世界で類のないものだ。
また、2020年に開催が予定されている東京オリンピック・パラリンピックでも、東京都は既に、選手村などで燃料電池を搭載した水素バスを運行させることを発表しているが、これが実現すれば、世界が待望している水素エネルギーの日本の先進技術をアピールする大きなチャンスとなるだろう。
燃料電池車(FCV)は周知の通り、水素と酸素の化学反応によって発電した電気エネルギーを使って、モーターを回転させて走る自動車だ。水素の扱いについて、安全面で懸念する声もあるが、適切な扱いをすれば、ガソリンや天然ガス等と同等の安全が確保できる。
しかし、水素社会を目指すうえで問題がないわけではない。最も大きな課題は、新しいエネルギーを社会に導入するためのコストと手間だ。いくら優秀なFCVを製造しても、安価な水素の供給と、水素を充填するスタンドが身近になければ、ガソリン車に代わって一般社会に普及することはないだろう。昨今、岩谷産業が山口県で水素生産能力を2倍にし、神戸港に水素の輸入拠点を計画するなど、水素の安価化と供給体制については具体的な動きが進んでいる。
そんな中、来るべき水素社会の実現に向けた動きがあった。1月25日に、鳥取県と鳥取ガス・積水ハウス<1928>・本田技研工業<7267>の3社が、地球温暖化防止と持続可能な低炭素社会の構築を目標とする鳥取県の「水素エネルギー実証(環境教育)拠点整備プロジェクト」を推進する協定を締結した。
「水素エネルギー実証(環境教育)拠点」(鳥取県鳥取市)では、再生可能エネルギーで水を電気分解し水素を製造・供給する設備「スマート水素ステーション」(SHS)を日本海側で初めて整備して、太陽光で発電した電力から水素を作り、FCVに供給。敷地内の積水ハウスのスマートハウスに燃料電池やFCVから住宅へ電力供給を行うなど、環境に優しく、快適でスマートな「水素の暮らし」を体験してもらうという。このモデルは、自然エネルギーの自産自消、まさに無尽蔵な夢のエネルギーシステムといえるだろう。
再生可能エネルギーを活用した水素ステーションと住宅、FCVを一体整備する水素エネルギーの活用は全国初で、その結果が注目されている。
いよいよ水素社会が現実味を帯びてきた。再生可能エネルギーの比率が3割を超え、水素エネルギーの活用にも積極的な鳥取県と、SHSの設置に意欲的な鳥取ガス、水素インフラや分散型エネルギーインフラを理念とする本田技研工業、ゼロエネルギーハウスや燃料電池をトップランナーとして積極的に導入し普及の中核的な企業である積水ハウスの3社が組んで「水素の暮らし」を提示する。敷地内には、水の電気分解により水素を作る実演などで、水素について学べる環境教育拠点も設けて、水素エネルギー活用の理解を図るという。地球環境に優しい新しい社会の姿と技術力を、世界に先駆けて日本から発信することができれば、国内のエネルギー革命になるだけでなく、日本経済にとっても大きなチャンスが拓けるのではないだろうか。(編集担当:藤原伊織)