日本政府観光局の発表によると、2015年の訪日外客数は前年比 47.1%増の約 1973万人で、統計開始以来最大の伸び率を記録。円安による割安感や原油安による航空運賃の低下などから、過去最高となった。一方で、施設の老朽化や過去からの過剰債務など、厳しい経営環境に身をおく旅館・ホテルも少なくない。帝国データバンクでは、そうした状況を踏まえて、旅館・ホテル経営業者の倒産動向について、調査・分析した。
それによると、2015年の旅館・ホテル経営業者の倒産件数は、前年比 8.9%増の86件となり、東日本大震災の影響から大幅に増加した2011年以来、4 年ぶりに前年を上回った。 負債総額は499億8800万円で、同28.5%増と大幅に増加しているが、2006年と比べると3分の1以下の水準となっているという。
業歴別にみると、「30 年以上」が構成比55.8%と最も高く、以下、「20~30年未満」(構成比22.1%)、「5~10年未満」(同7.0%)となった。倒産した主な旅館・ホテル経営業者の倒産要因をみると、設備の老朽化や改修に伴う借入負担などの理由が目立っており、業歴の長い業者は設備の老朽化などから競争力が低下しているものとみられるとしている。
倒産態様別にみると、「破産」が構成比67.4%と最も高かったが減少傾向、逆に「特別清算」が同23.3%と増加した。旅館・ホテル経営業者を含む全国全業種では「特別清算」の構成比は 3.3%で、旅館・ホテル経営業者がいかに高いかがわかるとしている。
地域別に旅館・ホテル経営業者の倒産動向をみると、「北海道」「関東」「北陸」「中部」で倒産件数が増加した。逆に、京都や大阪など人気の観光地を抱える「近畿」をはじめ「中国」「四国」「九州」では倒産が減少した。
国・地域別にみて訪日旅行者数が多い韓国や中国、台湾、香港などでは地理的な背景もあって「中国」「四国」「九州」などの地域の人気が高い。こうした地域では航空路線の拡充やクルーズ船寄港の増加などもあり、インバウンド増加の恩恵を受けていると見られるとしている。
県別の倒産件数では、特に北海道(4件→9件)や東京都(1件→8件)での増加が目立つ。いずれも観光地としては人気だが、外資や異業種からの進出などにより競合が激化している可能性もあるという。
円安傾向の継続や中国をはじめとしたアジア諸国の経済成長などから、ここ数年は外国人観光客の増加が続いている。国内の宿泊旅行についても、観光庁によると 2015年の宿泊旅行消費額は4-6月期、7-9月期は2ケタ増と好調だ。その一方で2015年の旅館・ホテル経営業者の倒産件数は4年ぶりに増加に転じた。新会社に事業を譲渡した上での事実上の“再生型”特別清算や民事再生の割合が高いことが特徴で、再生型の法的整理により悪化した財務を整理して、高まるインバウンド需要取り込みを見据えた動きとみられるという。
しかし、足下では国別・地域別の訪日旅行者数が最も多い中国の景気が減速している。今後については、訪日外国人数やその消費動向次第では、旅館・ホテル経営業者の業績や倒産動向に影響を与える懸念もあり、動向が注目されるとしている。(編集担当:慶尾六郎)