【総合流通、コンビニの2016年2月期決算】GMSは時代遅れで消えていく運命なのか?

2016年04月15日 08:03

 ■コンビニは既存店強化にシフトして採算改善

 小売業の総合流通、コンビニ業界主要各社の2016年2月期本決算がほぼ出揃った。

 総合流通グループは、セブン&アイHD<3382>はトータルの連結決算では営業収益0.1%増でかろうじて増収。営業利益は2.6%増で前期の1.1%増から改善したが、当期純利益は7.0%減で前期の1.5%減から減益幅が拡大した。イトーヨーカ堂などGMS(スーパーストア事業)分野は営業収益2.4%増で前期の0.1%増から改善したが、営業利益は62.6%減で前期の34.8%減よりもさらに採算が悪化している。営業収益で全体の3分の1を売り上げながら、営業利益では全体の2%しか稼げない業態になってしまった。

 決算を承認する取締役会で人事刷新案が否決され、「コンビニの父」と呼ばれた鈴木敏文会長(CEO)が退任。続いて村田紀敏社長(COO)も退任して、同社は経営の大きな節目を迎えている。

 イオン<8267>は、トータルの連結決算では営業収益は15.5%増、営業利益は前期の2ケタ減益から一転して25.2%増の2ケタ増で、4期ぶりの営業増益。GMS事業が大幅減益でも食品スーパーなどSM・DS事業、薬局などドラッグ・ファーマシー事業が大きく伸びて貢献した。しかし当期純利益は85.7%減の大幅減益。その要因は465億円に達した減損損失と法人税負担の増加。イオンリテール、イオン北海道、イオン九州、ダイエーが属するGMS事業は営業収益5.9%増、営業利益は19.1%減で、相変わらず全体の採算の足を引っ張っている。

 ユニーGHD<8270>は、トータルの連結ベースでは営業収益1.9%増、営業利益10.5%増で前期の減収減益から持ち直したが、当期純利益(最終損益)は28億円の赤字で前期に比べて赤字幅が4億円拡大した。総合小売事業もコンビニエンスストア事業も前期と同様に多額の減損損失(特別損失)を計上したため。一方、前期が減収、大幅減益だったアピタなど総合小売事業(GMS)は営業収益2.3%増、営業利益6.7%増と持ち直した。食品が好調で既存店売上高がプラスになっていた。

 総合流通グループの事業のルーツで、成長・拡大の核だったGMSに吹く逆風はおさまらず、風当たりはますます強くなっている。

 コンビニはこれまで新規出店が旺盛だったので、全社の全店売上高は今年2月まで36ヵ月連続で増収を続けている。それから開店後12ヵ月未満の新店分を除いた既存店売上高は、消費増税が実施された2014年4月からは12ヵ月連続で前年同月比マイナスだったが、2015年4月からは一転、今度は11ヵ月連続プラスとなっている(日本フランチャイズチェーン協会「JFAコンビニエンスストア統計調査月報」)。

 セブン&アイHDのコンビニエンスストア事業(セブンイレブン)の営業収益は1.9%減で、前期の7.8%増から減収に転じた。しかし営業利益は9.9%増で前期の7.5%増から増益幅が拡大し5年連続の過去最高益という減収増益だった。1店舗あたりの平均日商は65.6万円で他社より10万円以上多く、収益力は盤石だ。

 ローソン<2651>は営業総収入が17.2%の2ケタ増だったが、営業利益は2.9%増で前期よりも増益幅が圧縮。それでも過去最高益だった。当期純利益は減損損失が響き4.0%減で、前期に続いて最終減益だった。それでも年間5円増配。健康志向の自社ブランド商品「グリーンスムージー」がヒットし、高級スーパー、成城石井の買収効果も出ている。

 今年9月にユニーGHDと合併し、「サークルKサンクス」のブランドも2018年には「ファミリーマート」に統合される予定のファミリーマート<8028>は、大量出店から店舗の採算性重視への戦略転換が効いて営業総収入は14.2%増、営業利益は20.6%増で過去最高。しかしリストラ費用の負担が重く当期純利益は17.9%減。「サークルKサンクス」を運営するユニーGHDのコンビニエンスストア事業のセグメント業績は、営業収益は5.5%増ながら営業利益は7.7%減で、業界全体の業績復調から取り残されていた。

 全体的にみればコンビニの2016年2月期は、戦略の重点が新規出店の数の競争から利益への影響が大きい既存店の強化へシフトし、営業の採算が改善した年だった。しかしセブンイレブン、ローソン、ファミリーマートの「3強」は営業利益を伸ばしたがサークルKサンクスは営業減益、イオングループのミニストップの営業利益はわずか0.6%増で、企業の間で差がついていた。

 
 ■コンビニの経営統合、提携の効果は出るか?

 小売業全体の今期、2017年2月期の業績見通しはトータルの増収増益幅が前期より圧縮し、不透明感が漂う。年初からの円高、株安で国内景気見通しの停滞感があり、それが個人消費にどう影響するか測りかねてるようだ。夏の参議院選挙を控えて2017年4月に消費税率の10%への再引き上げがあるかどうかも不透明。もしなくなれば直前数カ月の駆け込み需要は消える。インバウンド消費もいつまで続くかわからない。

 業種別に言えばGMSはもはや時代遅れの小売業態になってしまった感があり、セブン&アイHDは昨年、5年で全国のイトーヨーカ堂の約2割にあたる40店舗を閉鎖する店舗リストラを発表している。一方、コンビニはローソンがスリーエフと提携し、ファミリーマートはサークルKサンクスと統合して、大型のM&A、アライアンスで王者のセブンイレブンに対抗しようとしている。

 総合流通グループのセブン&アイHDは、傘下のニッセンHDが経営再建プランを検討中なので未定としているが、通信販売事業を除いた場合は営業収益2.1%増、営業利益7.8%増、当期純利益は増益に転じ10.1%増を見込んでいる。そのうちGMS(スーパーストア事業)は営業収益3.1%増、営業利益は3.49倍を見込み、営業利益は2期続いた大幅減益からV字回復する見通し。

 前期は大幅な最終減益だったイオンは売上高2.7%増、営業利益7.4%増、当期純利益66.4%増と最終利益のV字回復を見込んでいる。年間2円増配の見込み。前期に引き続き、「ダイエー」を「イオン」に衣替えするようなグループ構造改革の効果が出て収益力アップが期待できるという。

 前期が増収、営業増益でも最終赤字だったユニーGHDは、第2四半期(3~8月期)の営業収益は0.2%減、営業利益は35.2%増。当期純利益は5億円の赤字を見込んでいる。コンビニエンスストア事業の不採算店で減損損失を計上するため。第3四半期の初日の9月1日にファミリーマートと合併するので通期の業績見通しは未定となっている。GMS(総合小売事業)は第2四半期で営業収益0.3%減、営業利益は138.2%増(2.3倍)を見込んでいる。粗利益率の改善、減価償却の計算方法の見直しで大幅増益になる見通し。

 コンビニのセブンイレブン(セブン&アイHDのコンビニエンスストア事業)は、営業収益は1.8%増、営業利益は3.7%増という控えめな見通し。

 ローソンは営業総収入は11.1%増の連続2ケタ増収、営業利益は4.8%増、当期純利益は13.1%増で前期の減益から2ケタ増益に転じると見込んでいる。年間5円増配。4月13日、2月期決算と同時に神奈川県地盤のスリーエフと資本業務提携で合意したと発表した。共同出資の新会社を設立してスリーエフの約90店舗を移籍し、9月から「ローソン・スリーエフ」の新ブランドに看板をつけ替える予定。

 ファミリーマートは営業総収入4.1%減、営業利益2.6%増。中期経営計画の営業利益目標1000億円の半分の500億円で、連続最高益を見込む。当期純利益は4.4%増。国内出店数は抑制した前期の約2倍の741店舗の純増を見込んでいる。しかしこれは9月に予定されているユニーGHDとの合併効果を計算に入れていない数字で、のれん代の償却分を差し引いても営業利益の押し上げ効果は出ると予想されている。そのユニーGHDのコンビニエンスストア事業(サークルKサンクス)の3~8月期の業績見通しは営業収益6.5%増、営業利益11.9%増の増収、2ケタ増益で、合併直前の経営努力で少なくとも業績の足を引っ張ることはなさそうだ。

 大量出店競争はもう過去の話。商品やサービスなど中身で勝負する既存店強化が戦略の重点であることは今期も変わらない。ローソンとファミリーマートは、提携や経営統合の効果がどれだけ出るかが注目される。(編集担当:寺尾淳)