7月29日、電力大手3社(東京電力HD<9501>、中部電力<9502>、関西電力<9503>の4~6月期(第1四半期)決算が出揃った。
4~6月期は期初の4月1日に電力小売の完全自由化が始まったが、6月末までの3カ月間の実績は電力広域的運営推進機関(広域機関)が7月8日に公表している。電気の購入先を切り替える「スイッチング開始申請」件数は累計126万4400件で、全国の電力総契約数6260万件の2.01%に達した。東京電力管内は76万2500件、関西電力管内は26万500件、中部電力管内は8万3700件で、この3電力管内で全国の87.5%を占める。
東京電力管内では東京ガスが約37万件の契約を獲得し、年度目標の40万件をこの夏にも達成しそうな勢い。関西電力管内では大阪ガスが約15万件の契約を獲得し、年度目標の20万件の4分の3をすでにクリアした。KDDIと提携して東電管内で電力小売に参入したJX日鉱日石エネルギー(エネオスでんき)は約10万件の契約を獲得。この3社だけで6月末時点の全国の契約切り替え申請全体の49%と、約半分を占めている。今のところ都市ガス大手と石油大手が電力小売の自由化をリードする存在と言える。
迎え撃つ電力10社の4~6月期決算は、10社中7社で前年同期比で損益が悪化した。もっとも、その最大の原因は契約数の約2%を切り取られた電力小売の自由化ではなく、「燃料費調整制度」による料金収入の低下だった。
6月末時点で稼働中の原発は九州電力<9508>川内原発の2基だけで、現状の日本の主力電源はLNG(液化天然ガス)が燃料の火力発電。LNG価格(CIF価格)は、財務省の「貿易統計」によると2015年6月の約5万5300円から2016年6月の約3万2800円まで、1年で40.6%も下落している。燃料調達コストの低下に比例して電気料金も下がるため、料金収入が減少して限界利益が低下し、停止中の原発の維持費用も含めた固定費のシェアが増大して損益が悪化するという、単純な構図である。
それを裏付けるように九州電力の4~6月の業績は78.9%の経常増益と好調で、原発の稼働による第1四半期の利益押し上げ効果を210億円と発表している。値上げを繰り返して道民の反発を買った北海道電力<9509>と、原発が1基もない沖縄電力<9511>はもともと電気料金の水準が高く、変動費の燃料調達コスト下落によるメリットが享受できて経常増益だった。
逆に、かつて原発依存度が51%(2010年度)もあり、東日本大震災後に値上げを繰り返した関西電力は、1~2月に再稼働にこぎつけた高浜原発3、4号機が3月、大津地裁から運転停止の仮処分決定を受けて停止(4号機はその前にトラブルで停止)したため、原発再稼働を前提に見積もった月約100億円、第1四半期トータル約300億円の利益押し上げ効果も、電気料金の値下げによる契約者への利益還元も、あっけなく消えてしまった。経常利益は32.0%減と、九州電力とは対照的な決算内容になっている。
なお、四国電力<9507>は年金債務の増加という個別の事情もあり経常損益も最終損益も赤字。伊方原発3号機の再稼働が8月以降に予定され、再稼働すれば月20億円あまり、年間で250億円程度の利益押し上げ効果が出て黒字に転換できると見積っている。このように電力各社にとって原発再稼働は、行き詰まった業績を改善させる「切り札」のようになっている。
他に大きな効果が出せる手がないから原発再稼働は業績改善の「切り札」
2016年4~6月期の業績は、東京電力HDは売上高18.5%減、営業利益37.1%減、経常利益36.1%減、四半期純利益99.4%減の2ケタ減収減益。原子力損害賠償費6兆4770億円の前期見積額との差額1199億円を特別損失に計上したが、最終利益は11億4000万円で、かろうじて赤字転落を回避している。