テスラ車「オートパイロット」作動中の死亡事故にみる運転支援システムの限界?

2016年08月06日 20:18

Tesla_Auto_Pilot

米テスラ社の代表車種「モデルS」搭載の運転支援システム「オートパイロット」作動中に運転者が死亡する事故を起こしたことで、自動運転普及に黄信号?

 既に、さまざま報道されている事件だが、米テスラ・モーターズの最新型電気自動車「モデルS」が、運転支援システム「オートパイロット」作動中に運転者が死亡する事故を起こした。オートパイロット作動中の死亡事故は初めてだ。事故が起きたのは5月7日で、既に旧聞に属する事故といえるが、米国フロリダ州の幹線道路で起きた事故の原因を追及する報道はいまだに多い。

 そうした報道の多くで、誤解(あるいは用語の誤用)が気になる。テスラ社のオートパイロットは、直訳すると「自動操縦」だが、決して自動運転システムではない。あくまで“ドライバー支援システム”と同社も位置づけている。安全確保の義務はドライバーにあり、システムが安全に動作しているかどうかを監視するのもドライバーの役目だ。ところが、多くの報道・レポートは「自動運転中の死亡事故」としている例が多いのだ。

 テスラ社は公式HPには、「オートパイロットもドライバーも強い日差しの空を背景に、白いトレーラーの側面を認識できなかった、極めて稀な状況下で起きた事故」と発表している。米運輸省道路交通安全局は「詳しい事故原因を調査中だが、現段階で“オートパイロットに欠陥があるともないとも解釈すべきでない」としている。

 しかも、事故車のドライバーが走行中にDVDを鑑賞していた疑惑も浮上しており、テスラに対する目立って批判的な論調は少ない。ただ、オートパイロットがトレーラーを認識できなかった理由は明確ではない。

 テスラのオートパイロットは、センシングシステムにカメラのほかミリ波レーダーも搭載している。確かに、カメラだけのセンシングであるなら太陽の光が強くて、それが白いトレーラーの側面に反射したら、その眩しさで、トレーラーを認識できない可能性はある。しかし、ミリ波レーダーに太陽光反射の眩しさは関係ない。ミリ波レーダーは、ミリ波と呼ぶ波長の短い電波を照射して、物体に当たって帰ってくるまでの時間を測定して、物体の有無と距離を測定するセンサーだからだ。

 カメラは、物体の検知に光を使うので、雨や雪などの天候下では光が遮られ、センシング性能が低下する。これに対しミリ波レーダーは、雨や雪の影響を受けにくいので、まさに今回のような事故を避けるためにあるようなセンサーなのだ。が、ミリ波レーダーは役に立たなかった。それが死亡事故につながった。

 現在の運転支援システムとセンシング技術は、クルマの追突を防ぐための自動ブレーキ機能から発展した。このため、後ろから見たクルマを認識する機能を重視してきた。次いで、歩行者を認識する機能、さらには自転車を認識する機能などを加える恰好で進化している。

 しかし、自動車の安全運行はドライバーが最終責任を負う。ただし、現在の運転支援システムでドライバーが、「システムの状態を絶えず監視し、安全を確保する」ことは、それほど簡単ではない。テスラ車のオートパイロットの作動状況は、ダッシュボードのディスプレーに表示され、ドライバーは作動情報を知ることができる。しかし、ドライバーに監視義務があるとはいえ、メーター内のディスプレーと外を見比べながら、システムが正常に作動しているかどうかを監視し続けるというのは大きな負担だ。そんなことをするくらいなら、自分で運転した方が楽だ。システムの限界を超える状況になったら、自動運転を解除して運転を人間に明け渡す、これが現実的なシステムといえる。

 そのときに人間がスムーズに運転を代わるためには、ステアリングから手を離してはダメだ。すでにテスラ以外のメーカーの運転支援システムでは、数秒程度ステアリングから手を離していると、システムが解除される。

 運転支援システムの利便性と安全性をどのように両立していくべきか。その最新の例として、日産がまもなく発売する新型ミニバン「セレナ」に搭載のプロパイロット」をじっくり観察したい。このシステムは、高速道路単一車線での運転支援技術で、アクセル、ブレーキ、ステアリングのすべてを自動的に制御し、ドライバーの負担を軽減する運転支援システムだ。(編集担当:吉田恒)