【今週の展望】ヨーロッパ発リスクをノーベル賞が打破するか

2016年10月02日 20:38

0205_002

日本人のノーベル賞の受賞者が出ると、ビジネス直結の自然科学系三賞でなくても、世の中のムードが明るくなり、マーケットには良い影響をもたらす、はず。

 ボリンジャーバンドもオシレーター系指標も、本来なら「下値限定で上値を追える」ポジションなのだが、上値については日足一目均衡表の「雲」の中にあることを考慮しなければならない。上方向でも下方向でも雲の中で動くにはそれなりのエネルギーが必要で、雲の上限は、下から見ればレジスタンスライン(上値抵抗線)の役割を果たす。

 9月23日時点の需給データは、信用買い残は16日時点から668億円減の2兆1743億円で3週ぶりの減少。信用倍率(貸借倍率)は3.04倍から2.87倍へ2週ぶりに下落した。信用評価損益率は-13.57から-11.76へ改善。6月10日以来、約3ヵ月半ぶりの水準で、信用取引の含み損益は好転した。

 裁定買い残は1749億円増の5201億円で、2週連続の増加で近年にない低水準は脱している。裁定売り残は6211億円で、18年ぶりの逆転現象の解消にも近づいている。

 9月20~23日の投資主体別株式売買動向によると、外国人は1019億円の4週連続の売り越し、個人は2031億円の2週ぶりの売り越し、信託銀行は201億円の3週ぶりの買い越しだった。

 前週のカラ売り比率は、9月26日が43.3%、27日が42.8%、28日が39.8%、29日が37.3%、30日が38.6%と、週後半は40%を割り込んだ。しかし、日経平均VI(ボラティリティー・インデックス)は、前週は9月29日までの4日間は21以下で推移していたが、30日終値は22.14で29日の19.77から11.99%もはね上がった。それはひとえに「恐怖の使者」ドイツ銀行のせいで、OPECの「アルジェ合意」によるかりそめのリスクオンを、無残に吹き飛ばした。

 今週、最も要警戒なリスク要因は、そのドイツ銀行だ。アメリカの司法省から科せられた140億ドルの罰金に限定されず「これから何が出るかわからない伏魔殿」で「大きすぎてつぶせない」大手銀行。もし、メルケル首相がハードランディングの挙に出たりしたら世界経済の混乱は必至。6日にワシントンDCでG20財務相・中央銀行総裁会議が1日だけ開かれるが、その議題にものぼりそうな雲行きである。ヨーロッパの金融当局がどんな知恵を出してこの危機を切り抜けるのか、ちょっとしたサスペンスで、日本もそれに何か関与することがあるかもしれない。

 先行き不透明なリスクは、株式市場にとっては上値が抑えられる要因になる。今週はアメリカの雇用統計待ちの週でもあり、海外で経済指標の発表や政治・経済のイベントが多い。そのため、リスクを取りに行けず見送ったまま最後まで推移する可能性が高そうだ。

 本来であれば、上値のメドはおさまりの良い25日移動平均線の16720円と言いたいところだが、今週について言えば「雲を抜けてやっとそこまで」と思われ、前週は到達していた16700円は難しく、上限は16600円どまりとみる。為替のドル円は101円を少し超えるまでがやっと、という見立てだ。

 弱気にならざるを得ないのは、ひとえにドイツ銀行のせいである。2012年まで全世界の銀行で総資産ナンバーワンを誇り、かつては派手な投資銀行業務で飛ぶ鳥も落とす勢いだったこの銀行は、どこでどう歯車が狂ったのか、今や英国のEU離脱と肩を並べるヨーロッパ経済最大のリスクと化してしまった。イタリアのモンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナなど、かわいく見えてしまう。

 だから今週の日経平均の下値は厳しくみる。「雲」の中でもがきながらヨーロッパ発のリスク急浮上に抗しきれず大幅安を喫し、16100円あたりまで下落する日が来ないとも限らない。そこはボリンジャーバンドの25日線-3σというレベルである。株式市場に限らず人間は「隠れている(かもしれない)リスク」に、ことのほか弱い。昔の忍者は、飛び道具、素手での急所攻撃、火薬、「生物化学兵器」など変幻自在な攻撃手段を隠し持っていたがゆえに、刀や槍で戦う武術の達人よりも百倍、恐れられていたはずだ。

 ということで、今週の日経平均終値の予想変動レンジは16100~16600円とみる。

 だが、明るくなるかもしれない話もある。今週はノーベル賞発表ウィーク。科学技術がビジネスに結びつきやすい自然科学系三賞(医学・生理学賞、物理学賞、化学賞)で日本人の受賞者が出た年は、東京市場ではバイオ、電子部品、新素材など関連銘柄への買いがにぎわう。もっとも、平和賞や文学賞の時でも世の中のムードは明るくなり、マーケットには良い影響が出ていた。日本人の受賞者はまだいないが、経済学賞受賞でもおそらくそうなるだろう。

 毎年、有力候補に挙げられながら受賞を逃している村上春樹氏がもし今年、文学賞を受賞できたら、日本の文化が世界から改めて見直され、出版業界に限らず広範囲にわたって「ソフトパワー」が増し、経済にも好影響をもたらすことが期待できる。それは「日本」全体の投資妙味が高まり「買い推奨」がつくことを意味する。(編集担当:寺尾淳)