今、様々な業界で富裕層をターゲットにしたビジネスが活況を呈している。富裕層とは、一般的に金融資産1億円以上を持つ人を指すが、日本国内にどれだけの人数がいるかご存知だろうか。世界最大規模の金融コングロマリットであるクレディ・スイスが発表した日本の富裕層人口は2015年時点で212万人、2020年には69%増の359万人に達する見込みだという。少子高齢化や人口減少が懸念されているわが国で、富裕層が増え続けているということは、ただ単に人数だけではなく、人口における富裕層の割合が増加しているということになる。つまり、富裕層ビジネスは決して一時的なブームではなく、これからの時代に即したビジネス戦略といえるだろう。
高額商品の代表格と言えば住宅だが積水ハウスが高級邸宅に注力している。同社は、設計自由度の高い構造「ユニバーサルフレーム・システム」やオリジナル高級外壁材「ダインコンクリート」などを使用した鉄骨住宅「イズ・シリーズ」や「シャーウッド」で高級邸宅を手がけている。今年8月木造住宅「シャーウッド」からフラッグシップとして「新しい日本の邸宅」をテーマに「Gravis Stage(グラヴィス ステージ)」を新発売している。床から天井までのガラス窓で三方向に開放的なデザインなど、先進技術で実現し、「一棟一億円」ともいうこれまでの住宅メーカーのイメージを破る提案が特徴だ。開放的でありながらも、落ち着きとやすらぎ、木質感あふれる空間を演出することで、富裕層から好評を得ているようだ。
また、商品そのものだけでなく、富裕層向けの興味深いサービスを展開している企業も多い。
例えば、トヨタ自動車が世界65か国で販売している高級車ブランド・レクサスは、期間限定の野外レストランプロジェクト「DINING OUT」をサポートし富裕層を中心に話題を呼んでいる。DINING OUTは毎回、日本のどこかで数日だけオープンするプレミアムな野外レストラン。日本各地に息づく自然や伝統文化の魅力を発信することを目的に、一流シェフが独自の演出を交えながら、地元食材を使って創作した料理を提供している。自動車業界とは全く異なる分野ではあるものの、レクサスの顧客と重なる層への異なるアプローチとして成果をあげている。
また、老舗百貨店大丸の福岡天神店では、数年前から、コンシェルジュと呼ばれるファッションアドバイザーが約2時間半にわたって付き添い、顧客のイメージに合わせたコーディネートを提案するEXCELLENT ROOMというサービスを無料で提供している。サービス自体は無料ながら、EXCELLENT ROOM利用者の客単価は30万円に上るという。消費が低迷している百貨店業界において、富裕層の消費開拓としてはかなり有効な戦略といえるのではないだろうか。
二極化や格差社会などともいわれるが、富裕層が消費を渋っているようでは、いつまで経っても景気が上向くことはない。富裕層ビジネスが盛んになれば、日本の景気を牽引してくれるだろう。日本の将来の為にも、富裕層の消費を喚起するような、さらなる魅力的な商品やサービスの登場に期待したい。(編集担当:藤原伊織)