【百貨店、専門店業界の2016年3~8月期決算】絶不調に陥った百貨店、好調を持続する専門店

2016年10月12日 20:12

■百貨店は訪日外国人の客単価が減り、富裕層、中間所得層の客足が遠のく

 小売業の百貨店、専門店業界の主要各社の2016年3~8月期(第2四半期/中間期)決算がほぼ出揃った。

 百貨店は、高島屋<8233>は営業収益1.4%減、営業利益0.3%減、四半期純利益23.2%減で、3~5月期はプラスだった営業利益はマイナスに変わり、業績悪化。四半期純利益の通期見通しに対する進捗率は42.3%。中間配当は6円だった。国内店舗の訪日外国人需要は化粧品の販売が好調だったが、4月の中国の関税率アップでインバウンド消費の伸びが鈍っている。国内顧客は中間所得層の消費がふるわず、婦人服を中心に販売が落ち込んでいる。有力テナント誘致を進めており、9月に横浜市の高島屋港南台店に「ニトリ」が出店した。

 セブン&アイHD<3382>の百貨店事業(西武・そごう、ロフト)は営業収益2.9%減、営業損益は赤字幅が前年同期の8億円から18億円に拡大している。既存店売上高は3.7%減で、部門別で伸びたのは法人外商部だけだった。10月6日に発表したH2Oリテイリングとの資本業務提携で、関西のそごう神戸、そごう西神、西武高槻の3店舗を譲渡し、切り離す予定。

 大丸、松坂屋、パルコのJフロントリテイリング<3086>は売上高5.9%減、営業利益12.5%減、四半期純利益14.5%減の減収減益。四半期純利益の通期見通しに対する進捗率は50.3%。中間配当は14円だった。4月の中国政府の個人輸入品の関税引き上げ後、インバウンド消費を示す免税売上高は3~8月期、潮が引くように前年同期比27%減。決算記者会見で山本良一社長も「訪日客の購買単価は想定以上に下落した」と話す。宝飾品や時計のような高額品から化粧品にシフトしたため、客数に比べて客単価が伸びなかった。株安は国内富裕層の消費心理を悪化させ、中間所得層も節約ムードがひろがり、数が出る婦人服などが伸び悩んだ。

 東京、大阪の中心部に店舗を持つ百貨店は1ドル100円そこそこの円高も影響して訪日外国人観光客の「インバウンド消費」に陰りがみられた。政府観光庁発表の訪日外国人客数は減っていなくても、購入品が高額商品から化粧品など安いものにシフトして客単価が落ちた。6月の英国のEU離脱で東京株式市場の株価が大幅安になった影響や、消費増税以来、低迷している個人消費も買い控えを呼んでいる。地方百貨店は引き続き苦戦中。

 一方、専門店チェーン大手は業態、企業を問わず、おおむね業績好調だ。

 「無印良品(Muji)」の良品計画<7453>は、営業収益は9.7%増。営業利益は22.9%増、四半期純利益は12.9%増で、3~5月期から勢いがやや鈍ったものの増収、2ケタ最終増益。過去最高益を更新した四半期純利益の通期見通しに対する進捗率は48.2%。中間配当は137円だった。営業利益を国内と海外で分けると、国内は25%増の109億円、海外は17%増の85億円で、どちらも2ケタの増益。国内では化粧水など化粧品や、新発売のカレー味のカップラーメンなど食品、生活雑貨、家具などがよく売れ既存店売上高は3.3%増だった。松崎暁社長は「市場のニーズに合う商品は支持された」と話している。為替の円高による輸入コストの減少で営業利益率も改善した。海外はインドに新規出店するなど客数増で収益が伸びたが、最も好調なのは上海に大型店を出した中国など東アジア。化粧品がよく売れている。

 カジュアル衣料チェーン「ファッションセンターしまむら」のしまむら<8227>は売上高5.8%増、営業利益40.6%増、四半期純利益45.6%増で、3~5月期から増収、2ケタ増益が続き当初予想を上回った。3期ぶりの最高益の四半期純利益の通期見通しに対する進捗率は54.5%で順調。中間配当は予想配当97円50銭を50銭上積みして98円とした。上半期の新規出店は29店舗。夏場の目玉商品で汗を吸収・蒸発させる機能を持つ「素肌涼やかデニム&パンツ」、プリントTシャツ「ティース」などが好調な売れ行きを示した。円高による仕入れ価格の低下、在庫管理の徹底などが効果をあげ粗利率は1.8ポイント向上して33.2%。野中正人社長は「品揃えや商品陳列の見直しなどの改革の成果が出ている」と話している。

 靴のABCマート<2670>は、売上高2.4%増、営業利益0.6%増、四半期純利益10.7%増。中間期で過去最高益を更新した四半期純利益の通期見通しに対する進捗率は58.2%。中間配当は60円とした。訪日外国人のインバウンド消費で高価格帯のスニーカーなどがまとめ買い(通称「爆買い」)される機会が減り、国内の全店売上高は前年同期比4.9%増と計画を0.2ポイント下回っている。小島穣取締役は「以前より低価格品の売上比率が高まっている」と話し、下半期の既存店客単価の低下を危惧する。海外事業の収益も為替の円高で伸び悩んでいる。

 家具・ホームファッションのニトリHD<9843>は売上高14.7%増、営業利益34.0%増、四半期純利益43.3%増の2ケタ増収増益で、当初計画をクリアし過去最高益。四半期純利益の通期見通しに対する進捗率は63.8%と高い。中間配当は前年同期比で5円増配の35円だった。既存店売上高は8.2%増、同客数は7.7%増。接触冷感機能を持つ寝具「Nクール」シリーズが好調で、食器やカーテンなど生活雑貨も伸びている。都心部への出店による客層の拡大も寄与した。商品の改廃や原材料の共通化などに取り組んで為替変動の影響を吸収し、利益率も改善した。

 ホームセンター最大手のDCMHD<3050>は営業収益3.9%増、営業利益9.3%増、四半期純利益8.6%増の増収増益。中間期で過去最高益だった四半期純利益の通期見通しに対する進捗率は67.4%と高い。中間配当は前年同期比1円増配の11円。3月に旧ユニーGHDからホームセンター事業の譲渡を受け、4月に関東のケーヨー<8168>との経営統合を発表。6月に山梨県のくろがねやを買収、完全子会社化するなど、同業のホームセンターへのM&Aが続いた。

 日用品がドラッグストアとの競争におさている上に、相次ぐ台風上陸で客数が伸びず既存店売上高は4%減だったが、前期に完全子会社化した青森県、北海道の旧サンワドー店舗(DCMサンワ)が増収に貢献した。粗利率が高いPB商品の品揃えを強化してその販売比率を高めたこと、過度な値引き販売を控えたこと、円高で輸入商品の仕入れコストが安くなったことで利益率も改善している。

 外食の吉野家HD<9861>は、売上高0.5%増、営業利益20.7%減、四半期純利益137.4%増(約2.3倍)で、四半期純利益は3~5月期の48.5%減から激変し、通期見通しに対する進捗率は82.8%に激増した。中間配当は10円で前年同期と同じ。

 夏場の天候不順で客足は低調でも、主力の牛丼の「吉野家」は2%増収。4月に4年ぶりに投入した「豚丼」が人気メニューになった。ステーキ・しゃぶしゃぶの「アークミール」は苦戦。うどんの「はなまる」や持ち帰り寿司の「京樽」は新規出店を前倒しし、販管費が4%増になるなど出店にからむコストが利益を圧迫した。最終利益が大きくふくらんだのは、旧本社の土地・建物の売却益を約14億円、特別利益として計上したという特殊事情。

■百貨店は通期見通しを揃って下方修正。好調な専門店も慎重な見方

 百貨店、専門店業界大手の2017年2月期の通期見通しは、百貨店の高島屋、セブン&アイHDの百貨店事業、Jフロントリテイリングはともに下方修正している。専門店では中間期の業績が好調でも通期見通しを据え置く企業が目立ち、ABCマートは下方修正。不確定要素が多い下半期の消費動向を慎重に見極めようとしている。

 百貨店は夏場、インバウンド消費の鈍化に加えて個人消費の低迷もあり、宝飾品、時計など高額商品も婦人服も売れ行きが鈍化。通期見通しの下方修正を余儀なくされている。

 高島屋は営業収益を280億円下方修正して前期比2.5%増から0.5%減に、当期純利益を40億円下方修正して0.7%増から16.1%減となり、見通しが増収、最終増益から減収、最終減益に変わった。営業利益は修正なく3.1%増のまま、年間配当見通しも12円で修正はない。国内店舗は消費低迷、海外店舗・子会社は円高による為替差損で業績が停滞。前期に特別利益に計上した持ち合い上場株式の有価証券売却益が減少するために最終減益を余儀なくされる見込み。営業利益の予想据え置きの要因は不動産開発子会社のマンション販売の利益を前倒し計上するため。木本茂社長は下半期の販売については「消費が上向く材料が見当たらない」と表情を曇らせる。

 西武・そごうなどセブン&アイHDの百貨店事業は営業収益を2.9%減から4.7%減に、営業利益を214%増(約2倍)から4.4%増にそれぞれ下方修正した。西武・そごうの通期の既存店売上高は3.0%減の見通し。営業利益はV字回復の強気見通しから一転、増益維持もおぼつかない情勢になっている。

 大丸、松坂屋、パルコのJフロントリテイリング<3086>は売上高580億円下方修正して前期比10.4%増から4.0%減に、営業利益を50億円下方修正して4.1%増から6.3%減に、当期純利益を25億円下方修正して6.4%増から3.1%減となり、見通しが増収増益から減収減益に一変した。年間配当見通しは28円で修正なし。インバウンド需要の減少に加え、紳士服や婦人服の主要ターゲットの中間所得層に節約志向が強く出ていて、購入意欲が高まらないという。

 専門店チェーン大手では、良品計画は営業収益9.4%増、営業利益10.3%増で連続2ケタ増収増益、5期連続最高益。当期純利益11.9%増の連続2ケタ増益で修正していない。年間配当見通しも274円で修正なし。2017年の年明けから「無印良品」店舗やネット通販で、トマト、タマネギ、ジャガイモなど旬の生鮮食品を「MUJI marché(ムジ・マルシェ)」のブランドで販売する。

 しまむらは業績見通しは修正なし。売上高は5.2%増、営業利益は15.8%増、当期純利益は23.7%増で2ケタ増益を見込む。年間配当見通しは1円上方修正して前期比1円増の196円とした。期末配当は98円。9月以降は台風の相次ぐ上陸、10月まで長引いた残暑で秋冬物が動かず既存店の客数が伸びていない。保守的に見積もって業績見通しを据え置いたが、それでも最終利益は4期ぶりの最高益更新になる。

 ABCマートは下半期を悲観的に見積もって業績見通しの下方修正を行った。売上高は25億円減で2.0%増から1.0%増に、営業利益は6.4億円減で2.9%増から1.3%増に、当期純利益は6.1億円減で9.0%増から6.7%増に、それぞれ見通しを修正した。年間配当見通しは120円で修正なし。下方修正しても増収増益に変わりなく、営業利益は14期連続、最終利益は4期連続の過去最高益を見込んでいる。

 下方修正の理由は、国内店舗で海外ブランドのスニーカーの販売は好調でも、利幅の厚いPB商品の売上構成比率は想定よりも低下し、インバウンド消費に陰りが見えて客単価はこれ以上は伸びないと予測しているため。新規出店の効果で売上、利益を確保する方針で、今期の通期の国内出店数を期初の計画から13多い63店に上方修正したが、小型店が多いので「爆買い退潮」による減少分まではカバーできないという。

 ニトリHDは売上高9.1%増、営業利益8.2%増、当期純利益9.4%増。年間配当見通しは前期比5円増配の70円で修正なし。30期連続の営業最高益、18期連続の最終最高益へ視界良好。中間期の業績が好調でも通期見通しを据え置いた理由について武田史紀・財務経理部ゼネラルマネジャーは「最近の円高の進行で通期で1ドル108円台前半を見込む為替予約が重荷になる」と説明している。競合他社との価格競争の激化も理由に挙げる。下半期は渋谷、上野、新宿など東京都心部の百貨店内への新規出店が加速し、郊外型店舗とはまた異なる販売戦略を推進している。

 DCMHDはM&Aは活発だが業績の修正はなく、営業収益2.2%増、営業利益4.6%増、当期純利益3.3%増の増収増益で、4期ぶりの最高益更新を見込む。年間配当見通しは前期比1円増配の22円で修正なし。既存店売上高は前年割れが続いても、新規出店、M&Aで新たに加わる店舗、PB商品の販売拡大などが寄与して増収増益は確保できる見込み。

 吉野家HD は売上高は3.9%増、営業利益は約2.1倍の110.7%増、当期純利益は約2.3倍の126.9%増と利益大幅増の見通しのまま修正なし。年間配当見通しも前期と同じ20円で修正なし。下半期は出店費用の増加ペースが落ち着き、人気がある吉野家の冬の季節メニュー「牛すき鍋膳」に期待できるという。円高が続けば牛肉など輸入食材の仕入れ価格低下のメリットも出る。河村泰貴社長は「節約志向を感じるが、単純に安さ一辺倒ではない」として値下げは否定。下半期で十分挽回できるとみている。(編集担当:寺尾淳)