工業化多層階住宅は今、9階建ての時代へ

2016年10月29日 19:54

都市部を中心に住宅が「高く」なっている。「高く」といっても価格の問題ではなく、多層化が加速しているのだ。

 その一番の理由に挙げられるのは、2015年1月に施工された相続税の改正だ。この税改正によって相続税課税対象が拡大されたことで、相続税課税評価額が大幅に引き下げられる二世帯住宅や賃貸併用住宅・店舗併用住宅への需要が増加しており、それに伴って、限られた土地を有効活用できる多層階住宅への注目が飛躍的に高まった。

 多層階の需要が伸びているもう一つの理由は「収入を生む」住宅を求める人が増えていることだ。近年、所得の伸び悩みや将来的な年金受給に対する不安などを背景に、不動産を有効に利用して収入型の住宅を勧める業者が増えている。これに呼応するように、若い世代を中心に、親世帯と二世帯同居し、自宅と店舗や賃貸併用の多層階住宅を新築していわゆる不労所得を確保しつつ、住宅ローンも家賃収入で賄おうとする動きが増えている。

 将来の相続税の対策をしつつ、資産も有効に活用できて一石二鳥というわけだ。

 大手住宅メーカーは今、こぞってこの分野に力を入れており、大和ハウス工業株式会社では重量鉄骨ラーメン構造による5階建てまでの多層階住宅「skye~スカイエ~」、積水ハウスでは、設計自由度の高い同社独自のβシステム構法を用いた4階建てまでの多層階住宅商品「ビエナ」「べレオプラス」などを発売しているが、いずれも人気と高い評価を得ているようだ。

 多層階住宅の販売で40年の実績を持つパナホームはこの分野にとくに積極的で、先日、ついに重量鉄骨ラーメン構造による工業化住宅では最高となる9階建て多層階住宅「Vieuno9」(ビューノナイン)を開発し、来年1月15日からの新発売について発表した。

 「Vieuno9」は、9階建てまで対応できる新しい鉄骨架構体をバリエーションに追加したことで、これまで同社が展開してきた多層階住宅の「Vieuno(ビューノ)」シリーズに比べて空間対応力が大幅に向上しており、店舗や事務所用途に適した1階最大4mの天井高や、より広い柱間隔を実現。狭小敷地向けには無足場工法を進化させ、施工性・耐久性・デザイン性も各段にアップさせている。同社は、3階建て以上の多層階事業を新築請負事業の牽引役として、2018年度に受注高1000億円を目指す。

 多層階住宅のメリットは大きいが、当然、デメリットもある。

 収入型住宅の場合はとくに、店子や入居者が入らないというリスクや家賃の滞納、入居者によるトラブル等々の他、修繕コストも考えておく必要がある。家賃収入だけをあてにしてローンの返済を考えていると四苦八苦する羽目にもなりかねない。リスクヘッジもきちんと考えておくことも重要だ。(編集担当:松田渡)