iPS細胞が解明する統合失調症の発症メカニズム 新たな創薬の可能性に期待

2016年11月06日 09:22

 統合失調症は生涯罹患率が人口の約1%と高く、国内の総患者数は71万3,000人と推定されている。病気の予防と治療には、病気の原因(病因)の解明が必要だ。しかし、統合失調症はこれだけ患者数の多い病気であるにも関わらず、その病因は十分には解明されていない。統合失調症の発症しやすさの要因の一つとして、胎生期から生後早期にかけての脳の微細な発達障害が考えられている(神経発達障害仮説)。しかし、これまでは神経発達初期の異常やその後の分化過程の異常を、ヒトの脳を直接使って調べることは不可能であったため、神経発達障害の具体像は分かっていなかった。

 今回、理化学研究所(理研)脳科学総合研究センター分子精神科学研究チームの豊島学研究員、吉川武男チームリーダーらの国際共同研究グループは、分化誘導によってiPS細胞から神経幹細胞と神経前駆細胞の細胞塊(神経幹/前駆細胞)、神経細胞、グリア細胞が作製できることに着目した。統合失調症患者由来のiPS細胞を用いれば、実際の患者に起きた神経発達初期の異常やその後の分化過程の異常を観察でき、神経発達障害の具体的な発症メカニズムを調べることができると考えた。また、統合失調症患者の中でも、発症率を大きく上昇させる、22番染色体の長腕11.2領域の微細欠失を持つ22q11.2欠失症候群の患者のiPS細胞を用いることで異質性を絞り、より明瞭に異常を観察できると考えた。

 その結果、統合失調症患者由来の神経幹/前駆細胞では、健常者の場合と比べて神経細胞への分化効率が低く、アストロサイト(グリア細胞の一種)への分化効率が高いことがわかった。また、分化した神経細胞では神経突起が短い、移動能が低いといった異常がみられたという。

 また、これらの原因には特定のmiRNAの発現低下が関わっていることがわかった。さらに、統合失調症の死後脳を用いた解析でも、健常者の死後脳と比べて神経細胞とアストロサイトの量比に異常がみられることがわかった。

 現在使用されている向精神薬は主に神経伝達物質の受容体をターゲットとするもので、神経分化や神経発達に関連するmiRNAや分子は、患者の神経発達障害の分子メカニズムが不明だったため、創薬のターゲットにはなっていなかった。今回、特定のmiRNAや、そのmiRNAが制御するp38αタンパク質が神経発達障害に関わっている可能性が示されたことにより、神経分化や神経発達という新たな視点からの創薬の可能性が期待できるとしている。 (編集担当:慶尾六郎)