情報化社会の発展と進化により、素粒子物理学、核融合学、天文学などの先端科学技術分野では、国際協力によって構築された巨大な実験装置などで得られた大量の実験データが参加各国に転送されて分析されている。このため、100Gbps級の超高速ネットワークの整備が進められており、日本でもSINET5が国内全都道府県、および、米国との間を100Gbpsで結んでいる。こうしてネットワークが高速化する一方、転送プロトコルの制約から長距離通信時の転送速度が上がらないことが課題になっていた。
今回、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)と大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立情報学研究所(NII)は、NIIが開発したファイル転送プロトコル「MMCFTP」(Massively Multi-Connection File Transfer Protocol)を用いた日本―米国間のデータ転送実験を行い、転送速度約150Gbpsで1~10テラバイト(TB)のデータを安定的に転送することに成功した。従来は80Gbpsの長距離転送が「世界最速」として報告されており、距離条件・転送速度ともに大幅に上回る今回の実験結果は「世界最速」(1サーバー対1サーバーのデータ転送速度として)と考えられるとしている。
実験は、11月13日~18日に米ソルトレイク・シティで開催された国際会議「SC16」で米国から日本に向けてデータを転送する形で実施した。1TBを転送した時の実質転送速度(グッドプット)は137.2Gbps(転送時間58秒)~143.1Gbps(転送時間55秒)、10TB時は148.7Gbps(転送時間8分58秒)。1TBは一般的な25GBのブルーレイディスクで40枚分、地上波デジタル放送の動画に換算すると約120時間分に当たり、この大容量データを1分未満で転送したことになる。
日米間の往復遅延時間は、シアトル経由で115ミリ秒、ロサンゼルス経由で113ミリ秒だった。これは、転送速度84Gbpsを記録した昨年の国内実験での25.7ミリ秒に比べて4倍以上となる。従来の転送プロトコルでは、遅延時間が4倍になると転送速度は4分の1になるが、MMCFTPは往復遅延時間の大きさに応じてTCPコネクションの数を自動調整するため、こうした問題は発生しない。実験は「メモリーtoメモリー」と呼ばれる条件で実施したという。
10TB転送時の実質転送速度は148.7Gbps(転送時間8分58秒)で、トラフィックはシアトル経由とロサンゼルス経由の2経路に、ほぼ均等に分散された。これは、両経路間で往復遅延時間・回線品質共に大きな差がなかったためだという。
NIIではこうした課題解決に向けて開発した「MMCFTP」を先端科学技術発展のために提供し、実利用を通じて安定化と更なる高速化に取り組んでいく方針だ。NICTは今後も「JGN」を代表とするテストベッドの提供を通じて、情報通信の未来をひらく活動に取り組んでいくとしている。(編集担当:慶尾六郎)