騒音のなかで話を聞き取るときや、聞きなれない外国語などを聞き取るときなどには、無意識に話し手の口唇の動きを読む「読話効果」が利用されている。読話効果は、聴覚情報処理障害や広汎性発達障害など、聞き取り障害を伴うさまざまな脳機能障害において低下する例が報告されている。東北大学らのグループは読話効果における処理に聴覚野が重要な役割を担っていることを明らかにした。従来の視聴覚統合に関する研究では視覚野や、聴覚野から投射を受ける上側頭溝の働きについては確認されていたが、早期の聴覚情報処理部位である聴覚野レベルの処理が確認されたのは今回が初めて。
読話効果における視覚情報と聴覚情報の統合処理では、両情報の提示されるタイミングが同じときに最大となるが、一定の範囲内のずれであれば補正されてほぼ同等の効果が得られる。これを読話効果の「時間窓」と呼ぶ。今回の研究では読話効果の特性である時間窓が、早期の聴覚情報処理部位である聴覚野レベルにおいて見出されることを、脳磁図を用いて明らかにした。同研究結果が重要な点は、視覚情報・聴覚情報の統合処理が、視覚野や上側頭溝での処理に先行して聴覚野で行われているという発見と、脳磁図による読話効果の定量的、客観的評価の可能性を見出したことだ。
日本では高齢化率が上昇に伴って、コミュニケーションや外界音からの状況判断に支障をきたす「難聴」を患う人も増えている。音が聞こえ辛い症状は、受け取る音量レベルの低下だけでなく、音声情報処理などの認知機能低下とも密接に関係することがわかっている。難聴の状態が長く続くと認知機能の低下を招く。また、音声の理解度が低い人のなかには認知聴覚情報処理障害を伴うことがあり、こういったケースでは、補聴器を活用した音声レベル・指向性向上による聞き取り改善効果は薄い。同研究を発展させることで、聴覚情報処理障害や広汎性発達障害などの客観的な診断や、障害のメカニズム解明につながる可能性があり、聴覚情報処理の神経基盤解明への貢献が期待される。(編集担当:久保田雄城)