統合失調症治療の標的分子の新しい生理機能を発見 新規治療薬の開発に期待

2016年12月16日 08:04

 ドパミンは感情・意欲・運動・学習などに関わる重要な脳の伝達物質だ。ドパミンが結合するドパミン受容体の中で、ドパミン D2受容体は統合失調症、注意欠陥多動性障害(ADHD)やパーキンソン病などの様々な精神疾患に対する治療薬の標的になっている。しかし、ドパミン D2受容体と精神・運動との関わりは不明だった。

 今回、東北大学大学院薬学研究科の福永浩司教授、岐阜薬科大学の塩田倫史准教授らの研究グループは、統合失調症治療の標的分子として知られるドパミン D2 受容体の新しい生理機能を発見した。研究では、ドパミン D2受容体の新しい細胞内活性化メカニズムを見出し、そのメカニズムが抗精神病薬による精神安定作用と運動機能制御に関与することを証明した。

 ドパミン D2受容体にはD2L受容体とD2S受容体の2種類の構造の異なる受容体が存在する。研究では、D2L受容体が細胞膜表面だけでなく、細胞内小器官(初期エンドソームとゴルジ装置)にも局在し、細胞内D2L受容体の活性化により抗精神病薬による精神安定作用と運動機能制御作用を増大することを明らかにしたという。

 具体的には、ドパミンが細胞膜D2L受容体に作用すると、D2L受容体と Rabex-5、Rab5及び細胞の成長に関与するPDGF受容体が初期エンドソームに集積する。D2L/ PDGF受容体複合体はダイナミンタンパク質を介して細胞内に取り込まれ、初期エンドソームあるいはゴルジ装置に局在する。その結果、神経活動を高め、運動機能を制御することになる。この研究成果は細胞内 D2L 受容体の生理機能を実証した初めての成果であり、細胞内D2L受容体が新しい錐体外路機能調節薬及び精神疾患治療薬の新しい創薬標的であることを示したという。

 細胞内D2L受容体とPDGF受容体の協同による活性化機構は、運動機能だけでなく精神機能にも深く関与すると考えられる。実際に精神異常の見られる動物では、細胞内D2L受容体を活性化することで、精神疾患治療薬に対する感受性が増大する。今回の発見により細胞内D2L受容体活性化作用を目指した精神疾患の新規治療薬の開発が期待できるとしている。(編集担当:慶尾六郎)