2017 年の景気は、「悪化」や「踊り場」局面になると考える企業が前年から減少したうえ、「分からない」が過去最高となるなど(「2017 年の景気見通しに対する企業の意識調査」)、先行きが一段と見通しにくくなっている。その一方で、政府は官民対話等を通じて賃金の引き上げを要請している。そのため、雇用確保とともにベースアップや賞与(一時金)の引き上げなど、賃金改善の動向はアベノミクスの成否を決定づける要素として注目されている。このようななか、帝国データバンクは、2017 年度の賃金動向に関する企業の意識について調査を実施した。
2017年度の企業の賃金動向について尋ねたところ、正社員の賃金改善(ベースアップや賞与、一時金の引上げ)が「ある」と見込む企業は51.2%となり、前回調査(2016年1月)における2016年度見込み(46.3%)を4.9ポイント上回った。賃金改善のある企業は2年ぶりに増加し、調査開始以降で初めて5割を超えた。一方、「ない」と回答した企業は 22.5%と前回調査(23.7%)を1.2ポイント下回った。また、「分からない」は3.7ポイント減少した。「ある」が「ない」を7年連続で上回ると同時に、その差も28.7ポイントと過去最大を更新した。2017 年度の賃金動向は概ね改善傾向にある。
2016年度実績では、賃金改善が「あった」企業は 3 年連続で 6 割を超え、景気の先行き不透明感が増すなかで、多数の企業が賃金改善を実施していた様子がうかがえる。2017年度に賃金改善が「ある」と回答した企業を業界別にみると、『製造』が最も高く、『建設』、『サービス』、『運輸・倉庫』が続いた。上位4業界は前年度と変わらなかった。
企業からは、「労働力確保のためには賃金の見直しは必至」(漁業協同組合、北海道)や「地方の中小企業の人手不足は深刻で、現状の社員・アルバイトを定着させるため、給与や賞与のアップなどを進めないと会社を維持できない」(ガソリンスタンド、山形県)などの声が多くあがり、人材を定着させるために賃金改善を行っている様子がうかがえる。また、「賃金体系の見直しは必要事項。同一労働同一賃金も含めて早急に大きな改善が必要」(金型・同部分品・付属品製造、神奈川県)といった意見もみられた。
従業員数別では、「6~20人」(54.9%)、「21~50人」(57.0%)、「51~100人」(54.6%)、「101~300人」(51.8%)が5割を超えた。他方、「5人以下」「301~1,000人」「1,000人超」では3割台にとどまっており、賃金改善を行う企業は二極化している。また、多くの企業で賃金改善を行う割合が前年比で増加しているなか、唯一「1,000人超」のいわゆる大企業のみが前年を下回った。
2017年度の正社員における賃金改善の具体的内容は、「ベースアップ」が 40.3%となり、「賞与(一時金)」は28.8%となった。前回調査(2016年度見込み)と比べると、ベアが4.8ポイント、賞与が2.8ポイントそれぞれ増加した
「ベースアップ」は、リーマン・ショック前の2008年度見込み(2008年 1 月調査)40.0%を上回り、過去最高を更新した。また、「賞与(一時金)」も 2014 年度見込み(2014年1月調査)27.8%を更新し、過去最高を記録した。(編集担当:慶尾六郎)