変形性股関節症は、股関節の痛みや可動範囲の制限、筋力低下などの症状がでる疾患である。歩行や立ち座りなどの運動機能や生活の質にも大きな悪影響を与える。女性に多い疾患であることが知られており、日本では約120万から 420 万人の患者がいるとされている。変形性股関節症は慢性進行性の疾患であるため、進行予防は極めて重要な課題だ。現在まで、骨形態の異常や加齢、性別など複数の要因が疾患進行に関わることが明らかになっている。さらに、一般的に、股関節に過剰な負荷をかけることも疾患を進行させる可能性があると考えられてきた。しかし、関節へのどのような負荷が進行を加速させてしまうのか、その要因はまだ世界的にも明らかではなかった。進行要因が明確でなかったため、進行を予防する効果的なリハビリテーションも不明だった。
今回、建内宏重京都大学大学院医学研究科助教、市橋則明同研究科教授らの研究グループは、患者一人一人の歩き方の違いに影響される一歩ごとの股関節への負荷と、日常生活や仕事による一日の活動量(歩数)とに着目し、それぞれを分析するとともに、それらを掛け合わせた“股関節累積負荷”という新しい指標を考案した。仮に、一歩ごとに加わる負荷は小さくても、活動量が多すぎれば一日に股関節に加わる負荷の総量は大きくなるため、一日に股関節に加わる負荷の総量である股関節累積負荷の増大は股関節に悪影響を与える可能性があると考えたという。
研究では京都大学医学部附属病院整形外科で変形性股関節症と診断され、経過観察中の患者50名を対象とした。期間は2013年4月から2015年3月までで、対象者は全員女性。まず研究開始時にレントゲン画像により股関節(骨盤と大腿骨の間)の隙間の幅を測定した。さらに、歩き方の3次元的な詳細な分析を行い、一歩ごとに股関節に加わる力学的負荷を定量化した。さらに、一週間の歩数を歩数計により記録し、一日平均歩数を算出した。歩き方の分析からわかる一歩での股関節負荷に一日平均歩数をかけることで、今回の研究で提案した新指標である股関節累積負荷を算出した。
研究開始から1年後に再度レントゲン画像で股関節の隙間の幅を測定し、国際変形性関節症学会の推奨に従って0.5 mm以上軟骨がすり減っていた患者を進行群、それ以外を非進行群に分け、なぜこの2グループに進行度合いが分かれるのか分析を行った。
分析の結果、一歩ごとの股関節への負荷と一日の活動量は、それぞれ単独では疾患進行に大きな影響はないものの、股関節累積負荷が増すことで変形性股関節症が進行することがわかった。さらに、研究開始時点での年齢や体重、関節症の進行度の影響も含めて検討したところ、やはり股関節累積負荷が増すことで疾患が進行することがわかった。股関節への力学的な負荷の観点から変形性股関節症の進行に影響を与える要因を明らかにした世界初の報告だという。(編集担当:慶尾六郎)