再生医療にも有用となる体組織の形成過程を知るには、発生過程で組織全体がどのように変形するのかを定量的に理解する必要がある。しかし、複雑な組織をリアルタイムかつ高分解能で計測することが難しいことから、従来の発生生物学では、各器官の発生に必須となる遺伝子や形態異常を引き起こす原因遺伝子に焦点を当てた子生物学的アプローチがとられてきた。
再生医療にも有用となる体組織の形成過程を知るには、発生過程で組織全体がどのように変形するのかを定量的に理解する必要がある。しかし、複雑な組織をリアルタイムかつ高分解能で計測することが難しいことから、従来の発生生物学では、各器官の発生に必須となる遺伝子や形態異常を引き起こす原因遺伝子に焦点を当てた子生物学的アプローチがとられてきた。しかし、こうしたアプローチでは、発生における物理過程を理解することはほとんどできなかった。このほど、理研の研究チームは数学的アプローチにより、限られた情報から背後にある情報をうまく抽出することに成功したと発表した。
ヒトや動物を形作る過程である発生については、これまで、個々の神経前駆細胞の中にある「時間軸遺伝子」と細胞外からの調整が協調して、発生時期に応じた正しい神経前駆細胞のふるまいを決めていることが明らかになったり、脊椎動物における神経官などの要素を取り出したようなシンプルな構造の「ホヤ」の発生過程を観察することでシミュレートされたりといった成果が得られている。
今回、研究チームは「ベイズモデル」と呼ばれる数理解析モデルを用いて、少数の標識された細胞、あるいは細胞小集団を目印とし、それらの位置変化の情報から組織の発生過程における変形過程を再構築できる計算手法を開発した。同手法をニワトリ胚の前脳の発生過程の形態変化において組織の各場所で細胞小集団が一つの軸方向につぶれることで起こることが見いだされ、同時に同計算手法の有効性が示された。
今後はこのような組織レベルでの解析を、正常胚と形態異常などを引き起こす胚との間で定量的に比較し数値化し、各遺伝子が発生過程に与える影響についてタイミングや部位ごとに明らかにする方針。今回開発された計算手法を応用し、遺伝子・細胞・組織という異なる階層間の動態の関係性の統合的な理解を進めることにより、ヒトや動物の発生メカニズムの解明に期待できる。(編集担当:久保田雄城)