産経新聞が「戦後72年、弁護士会」の企画記事を連載しているが14日付け、第4部「左傾の源は憲法学」(中)「司法試験経て、すり込まれる」の記事冒頭に、安倍晋三総理と当時の民主党・小西洋之参院議員の国会でのやり取りの一部が紹介され、東大法学部系の学者により戦後の憲法学が牽引されてきたことの弊害(左傾)を展開する入口に引用された。その時の安倍総理の答弁が憲法学者の芦部信喜氏を「知らない」と答えたことだった。
小西議員は芦部氏を知らないとの答えが総理から返ってきたことに驚いたのだろう。「憲法学を勉強もされない方が憲法改正を唱えるというのは、私には信じられない、とあきれてみせた」とその反応を産経新聞は紹介し、国際政治学者の篠田秀朗氏が「一国の首相が特定の学者を知らないことでこき下ろされる。『こんな事態は前代未聞だ』と著書で嘆いていた」云々と続けている。
ただ驚くのは小西議員だけではなかったのでないか。先のやり取りは平成25年3月の参院予算委員会での質疑応答だったというが、安倍総理は成蹊大学の「法学部政治学科」に学んだと紹介されており、筆者の時代は、司法試験の通説は東大名誉教授だった宮沢俊義氏の「宮沢説」でテキストも有斐閣から出版されていた『憲法Ⅱ新版』だったが、芦部氏はその宮沢氏の弟子にあたる憲法学会を代表する憲法学者だ。政治学科であれば、憲法は特に研究対象だったとはず。
総理が学んだころは筆者と近似しているので、宮沢俊義氏か、宮沢氏の門下で上智大名誉教授だった佐藤功氏の『日本国憲法概説』(学陽書房刊)を参考にされていた可能性が高い。芦部氏を知らないと答えたのは、世代違いの学者だったからだろうと推察する。
ただ、総理の考えに符合する憲法9条をはじめ改憲を政権目標にすることを求めている国家基本問題研究所の理事でもある憲法学者西修氏や同・百地章氏の憲法著書のみでなく、宮沢、佐藤、芦部各氏の憲法書の一読も、小西議員のような若手議員との憲法論戦では必要ではないか。是非、選挙後、一読をおすすめしたい。(編集担当:森高龍二)