国交省が公表した8月の建築着工統計調査によれば、貸家の新築件数が4.9%と3カ月連続での減少となった。この背景には地方銀行を中心としたアパートローンの急速な縮小があると考えられている。
銀行のアパートローンの新規融資額は、15年秋から16年末まで前年同期比2ケタの大幅な伸びを示していた。この背景にあるのは低金利政策と相続税法の改正だ。地銀や信金などの地域バンクはマイナス金利等の金融緩和政策で利鞘が薄くなった分、量的拡大で収益をまかなおうとしたようだ。そこで貸出増加の目玉として重視されたのがアパートローンだった。また、15年1月の相続税改正で課税対象が広がり、地銀や信金を中心に、アパートを建てることで空き地のままにしておくより課税評価額を下げられ節税につながることを売り文句に積極的なアパートローンの勧誘が行われ始めた。
大手企業など優良な貸出先を持たない地銀や信金は貸出先の企業も限られている。そこで低金利の中で量的拡大を図るために注目されたのがアパートローンだ。15年における地銀の貸出残高に占めるアパートローンの比率は全体の約10%、信金では16%にも達している。しかし、人口減少が進む地方では過剰供給による空き室が目立つようになってきた。そこで、16年から金融庁や日銀はアパートローンの急増について警戒感を示し監視を強めるようになった。
昨年公表の「 金融行政方針 」の中で金融庁は「 国内で活動する金融機関については、不動産向け与信( アパートローンを含む )等を増加させる動きが見られる。こうした与信集中リスクが、経済・市場環境が変化した際に金融機関の健全性に与える影響について検証する 」とし、さらに「 不動産関連貸出については、不動産業向けのみならず、不動産業以外の業種や個人事業主も含め、幅広くリスクの所在と管理体制を点検する 」として銀行に対し、適切な審査と体制の整備を求めだした。これが地銀などのアパートローンの融資態度を慎重にさせ、アパート建築が急速に減少に転じるようになった要因と見られている。
アパートローン・バブルは、当初は地元の建設業が潤うなど短期的には地域経済にプラスだ。しかし長期的には、経営の成り立たない物件が乱立し不良債権化し、銀行経営はもちろん経済全体を歪めることとなる。金融庁および日銀の早めの対応が功を奏したと言える。(編集担当:久保田雄城)