急激な高齢化の中で社会保障費が急膨張している。特に老人医療費の膨張が著しい。政府はこれまで薬価を引き下げることで医療費膨張を抑制してきたが、診療報酬の引き下げを行う方針を表明。医療関連人材の確保難につながる懸念も。
予算編成中の財務省と厚生労働省が診療報酬を引き上げる方針を示した。先に財務省と厚労省は薬価の成果主義導入による総額引き下げと調剤報酬の引き下げの方針を示している。高齢化の進展により後期老人医療費が急膨張しているが、中でも薬価関連の伸びが大きい。この為、政府はこれまで薬価の抑制を中心に老人医療費膨張を抑制しようと努めてきた。しかし、薬価のみの抑制では急増する後期高齢人口に比例して膨張する後期高齢医療費の抑制には限界があると判断し、診療報酬の引き下げの方針を決めた。これとともに高齢者の自己負担増も検討される見込みだ。
厚労省の人口推計によれば、高齢化率(65歳以上人口比率)は1990年には12.1%、2000年には17.4%、15年には26.6%と急膨張している。さらに今後、高齢者の中でも医療費の膨張要因である後期高齢者(75歳以上)の増大が予測されている。国民医療費は15年の概算では41.5兆円であり、GDPの約0.8%にも上っている。厚労省の推計では、このうち後期高齢者医療給付分は約33%である。後期高齢者医療費は00年に11.2兆円であったものが14年には14.4兆円に膨張している。このうち薬剤の支給額は00年に1.1兆円であったものが14年には2.4兆円に急膨張している。
一方、診療報酬は00年に9.4兆円であり14年には11.4兆円に増加している。急膨張し医療費を押し上げているのは薬価であるが、診療報酬は薬価ほど増加率は大きくはないものの後期高齢医療費中の構成比が大きく、後期高齢者の人口の増加に比例し、金額としては薬価の増加額を超える伸びとなっている。こうした後期高齢者医療費の構造が今回、診療報酬引き下げの方針を決めた要因と考えられる。
診療費報酬の引き下げは病院の収入の減少であり、医師や看護師等の医療従事者の収入の減少につながる。地方では医師をはじめとする医療関係従事者の不足が深刻である。一方、東京などの大都市部では医師過剰とも言われている。これは地方の病院の報酬よりも東京その他、都市部の病院の報酬の方が高いためと言われている。
政府は診療報酬引き下げ、薬価、調剤報酬の引き下げ、高齢者の自己負担引き上げと国民全体で痛み分けを行い急膨張する後期高齢者医療費を抑制しようという考え方のようであるが、医療従事者は現在でも過酷な勤務を強いられていると言われており、構成比の大きな診療報酬の引き下げは避けられない状況と言えるものの、医療人材のさらなる確保困難を助長する懸念もある。(編集担当:久保田雄城)