近頃、注目されているワードに「睡眠負債」がある。元々はスタンフォード大学の研究者により提唱された言葉で、日々の睡眠不足が借金のように積み重なり、心身に悪影響を及ぼすおそれのある状態のことを指すのだという。
これを特集した番組がNHKで放映されるや否や、「睡眠負債」という言葉がビジネスマンを中心に大きく注目されることになった。同番組では、6時間睡眠が2週間続くと2晩連続で徹夜したのと同様の脳の状態になるという実験結果や、認知症、癌、心臓病や脳卒中などの重篤な症状のリスクが高まることを紹介していた。
睡眠負債の影響は、脳と心身の健康、美容に大きく影響する。
睡眠が慢性的に不足すると、思考や認知をつかさどる脳の思考力や認知力、判断力、集中力が大幅に鈍ってしまう。また、脳は眠りながら記憶の整理も行っているため、記憶力の低下が顕著に表れる。昨日の出来事が思い出せなかったり、人の名前が思い出せなかったりしたら、要注意。睡眠負債が、かなり溜まっていると考えられるのだ。さらに、脳はアルツハイマー型認知症などの元凶となる「アミロイドβタンパク質」という有害な老廃物を睡眠中に取り除く作業も行っている。睡眠の負債がたまると当然、この作業が行われなくなって蓄積する一方となり、アルツハイマー型認知症の発症リスクが増大してしまう。
健康面での影響も深刻だ。先に挙げたような、癌リスクだけでなく、高血圧や心筋梗塞、動脈硬化などの循環機能障害、アトピー性皮膚炎、アレルギー症状などの免疫機能障害、肥満やタイプⅡ型糖尿病、高脂血症などの脂質代謝機能障害なども、慢性的な睡眠不足によってそのリスクが増大する。精神的な病では、鬱の原因のひとつにも挙げられる。
では、「睡眠負債」は、どうすれば返済できるのだろうか。睡眠不足を解消しようと、休日に「寝だめ」をしようとする人は多いが、これは実は逆効果だ。生活のリズムを崩してしまうことになって、かえって睡眠の質を低下させてしまうことにもなりかねない。
「睡眠負債」を解消するには、規則正しい睡眠習慣をつけること。そして、睡眠の質を上げることだ。ところが、忙しいビジネスマンは、起床時間は決まっていても、就寝時間を守ることが至難の業という人も多いだろう。規則正しい睡眠習慣が難しいのなら、せめて睡眠の質を上げることだ。
健康関連のショップやネットサイトでは、睡眠の質を上げるための様々なグッズが販売されていたりもするが、もっと基本的なことで改善できることはないのだろうか。これについて、住宅メーカーのアキュラホームのデザインセンター高橋大輔課長にプロの立場から話を聞いてみた。
高橋氏曰く、住宅を建てる際にハウスメーカー側からも、施主に対して主寝室についての様々な提案を行っているという。
顧客の睡眠をより快適にするために、同社がまず気をつけているのが照明だ。主寝室の照明、は、直接部屋を明るくするものよりも間接照明のようなものが良い。1/Fのゆらぎ、低反射を意識し、照度にも気をつける。調光できるような照明設備とともに、壁や天井もワントーン落とすことを意識している。照明だけでなく、音も心地よく反射するように床もマットなものを勧めているほか、天井には調湿作用がある木目のものもよく使うそうだ。
さらに、主寝室はパブリックルームではなくプライベートルームであるから、施主がそのプライベートな空間で「寝る」こと以外に何をするかをまず聞いておくという。そうすることで、心を落ち着かせ、より質の高い睡眠へと誘導されるのだ。
これらは主に新築を対象にした提案だが、現在住んでいる住まいや賃貸でも応用できるところは多い。照明を間接照明に換えたり、床に防音性の高い絨毯を一枚敷くだけでも、随分快適な睡眠空間が整うのではないだろうか。最近、仕事の効率が低下していたり、物覚えが悪かったりと、睡眠負債が気になるという方は、ぜひ試していただきたい。(編集担当:石井絢子)