新世代ウェアラブル「ヒアラブル」機器の普及に強力な追い風

2018年03月25日 14:32

ウェアラブル端末

ロームグループのラピスセミコンダクタが発表した13.56MHz 帯ワイヤレス給電チップセットが、ヒアラブル機器にワイヤレス充電時代をもたらす。

完全コードレスなワイヤレスイヤホン「AirPods」がApple社から発売されたことにより、次世代のウェアラブル端末として、ヒアラブル機器への注目度が世界的に高まっている。

 ヒアラブル機器とは、その名の通り耳に付けるタイプのウェアラブル端末のことだ。

 ウェアラブル端末といえば、これまでGoogle GlassやエプソンのMOVERIO (モベリオ)に代表されるようなメガネ型のスマートグラス、Apple Watchなどの腕時計型が広く認知されてきたが、これからはこの小さなイヤホン型がシェアを拡大しそうな雰囲気だ。

 「AirPods」を例に挙げてしまうと、高性能なワイヤレスイヤホンというイメージが先行するが、ヒアラブル機器の可能性は、もちろん音楽を聴くという行為だけに留まらない。

 まず、ヒアラブルの大きな特長は、既存のウェアラブルのような「見る」という操作を必要としない点にある。例えば、ソニーが2016年11月に発売した「Xperia Ear」は、音声エージェントを介したコミュニケーションや、頭の角度変更だけで操作するヘッドジェスチャー操作などが話題となった。さらにNECも、ユーザーの向きを把握するジャイロセンサーと、音に指向性を持たせる立体音響技術との組み合わせによる聴覚ナビゲーションなどの新世代デバイスの開発に力を注いでおり、今年度中の事業化を目指しているという。

 また、ヒアラブル端末の活用で期待されているのが、スポーツやヘルスケア分野への展開だ。そもそも、耳は脳に近く、体温測定も行われるくらい、体温や脈などの生体信号を測定しやすい場所だ。体重計や運動量計、脈拍系、血圧計などのヘルスケア機器と連動させることで、トータルなヘルスケア・マネジメントが実現するのは、遠い未来の話ではない。もちろん、スポーツ分野などへの応用も膨らむ。

 ところが、ヒアラブル機器には、これまで克服すべきある重大な課題が立ちはだかっていた。それは、充電仕様である。小型・高機能化が要求されているヒアラブル機器にとって、Micro USB コネクタなど給電用の端子が、さらなる小型化や省スペース化の妨げとなっていた。

 そこで期待されているのがワイヤレス給電技術だ。端子レスなワイヤレス給電なら、機器の小型化に貢献することができる上、防水性・防塵性も向上できる。超小型化が求められるヒアラブル機器には、非常に有効な給電システムといえる。しかし、これまでワイヤレス給電用のアンテナの大きさなどが原因で、実現は困難だった。
 
 日本の電子部品企業では、ロームグループがワイヤレス給電に力を入れており、これまでにもスマートフォンやタブレット端末向けのワイヤレス給電規格(WPC Qi など)に対応した商品を積極的に開発している。そしてついに、同グループ企業のラピスセミコンダクタがこの度、ヒアラブル機器などの超小型機器向けに世界最小のワイヤレス給電チップセットを開発した。

 ラピスセミコンダクタが3月19日に発表したワイヤレス給電制御チップセット「ML7630(受電・端末側)」「ML7631(送電・充電器側)」は、13.56MHz の高周波数帯で電力伝送を行うため、アンテナ(コイル)を小型にすることを可能にしている。同時に、送受電に必要な機能を1 チップに統合、SoC(システムオンチップ)としたことで、マイコンレスでワイヤレス給電制御を実現。このように製品自体も小型で高機能なため、ワイヤレス給電システム全体として、Micro USBコネクタと比較すると、面積比で約50%もの実装スペース削減に成功している。この新製品は、ヒアラブル機器にワイヤレス充電時代をもたらすだけでなく、もちろんあらゆるウェアラブルデバイスにとっても、強力な追い風となるのは間違いない。

 調査会社のIDC Japanが3月1日に発表した、2017年のウェアラブル端末の世界出荷台数は1億1539万台。前年比10.3%の躍進を遂げている。ヒアラブル機器が普及すれば、この勢いは間違いなく加速するだろう。日本メーカーの今後の活躍に期待したいところだ。(編集担当:松田渡)