世界最大自動車市場、中国を睨んだ電動車開発競争をめぐる、VW篇

2018年03月25日 12:39

EV in China VW

2018 年6 月24 日に米国コロラド州で開催されるパイク・スピーク ヒルクライムレースに参戦する、VWの最新電動レーシングカー「I.D. R Pikes Peak」

 フォルクスワーゲン(VW)グループは、ベルリンで3月中旬に行なわれた、「フォルクスワーゲンAG」年次記者会見で、ウィンターコルン氏の後任として就任したCEOのマティアス・ミュラー氏が、

 「VWグループは、“e-モビリティ”への転換を加速する。2022年末までに、世界各地の16カ所の工場で、電気自動車(EV)を生産する予定だ」と言及した。

 加えて、同氏は「現在、グループはEVを3カ所の工場で生産しており、2年後にはグループ全体で世界9カ所の工場で電気自動車の生産に向けて設備を整える予定。環境に優しい電気自動車の大規模な生産のために必要となる十分な量のバッテリーを確保するため、ヨーロッパと中国において、バッテリーメーカーとのパートナーシップ契約を締結しており、既に締結されている契約の総額は、約500億ユーロ(約6兆6000億円)に達している。北米向けのサプライヤーも間もなく決定される予定だ」と述べた。

 VWグループは、2017年秋に“e-モビリティ”のロードマップを示し、2025年までに最大で300万台のEVを生産し、グループ全体で80モデルの新しい電動車両を市場に導入する計画を発表した。今回のマティアス・ミュラー氏の会見は、そのロードマップの進捗状況を具体的に示したものだ。

 グループは先般、ジュネーブで開催された国際モーターショーで、アウディ「e-Tron」、ポルシェ「Mission E」に加え、フォルクスワーゲン「I.D.」、I.D.ファミリーの新メンバー「I.D.VIZZION」など、数多くのイノベーションを展示し、グループの積極的なEVシフトを示した。これらの展示から、VWグループは2019年以降、“ほぼ毎月”新しい電気自動車をリリースすることになるのだ。

 同時にVWグループは、2017年を好調な業績で終えた発表。それによるとVWは、ほぼすべての財務指標において、過去最高の数値を達成した。とくに車両販売台数で、世界中で1070万台の車両をユーザーに納車。これは、グループ史上最高の販売台数だ。この数値には、420万台以上を販売した“中国の販売台数”が含まれている。

 VWグループがEV開発に躍起になる理由が、ここにあるのだ。つまり、VWが急速なEVシフトを進めるのは、販売が見込める“お得意さま”中国の存在があるからだ。中国の新車販売台数は、2017年に約2888万台に達し、世界最大の自動車市場だ。その中国でVWグループは14%の販売シェアを持っている。VWは中国における販売ポテンシャルが高いのだ。

 中国におけるEVの需要は、現在、年間約60万台程度だ。が、中国政府の誘導策で今後、大きな市場拡大が見込まれる。中国市場における販売シェアを維持しようと思えば、EV販売は不可欠。VWグループは、中国政府からはEV普及に向けたインフラ整備やインセンティブに関して全面的なバックアップを受けており、VWの2025年に100万台/年のEV販売は、十分に達成可能だという。

 一方で、ディーゼル車の販売も諦めてはいない。ディーゼルエンジンには、確かに逆風が続くが、ディーゼル車であっても、適切に窒素酸化物(NOx)の排出量を抑えたクリーンディーゼルは、厳格化された排ガス規制をクリアする。地域や国による電力供給事情よって、ディーゼルが適した地域もあるというのがVWの考えだ。

 つまり、欧州で強みを持つディーゼル車販売で収益を守り、電動化や自動運転技術開発で、世界に攻勢をかけるVWの戦略が見えてくる。(編集担当:吉田恒)