安倍晋三自民総裁(総理)は保守系団体主催の憲法改正フォーラムに寄せたビデオメッセージで「いよいよ私たちが憲法改正に取り組む時がきた。主役は国民の皆様だ。国民の幅広い合意形成が必要だ」と出席者に呼び掛けた。しかし、この認識は世論と乖離が大きい。
国民の間に改憲を求める声がどこまで高まっているのか、マスコミ各社の世論調査も踏まえた認識こそ、安倍自民総裁に求められる。
共同通信社が憲法記念日前に実施した世論調査(18歳以上男女3000人対象)でも自民党や保守系改憲推進派が改憲の本命とする「憲法9条」(戦争の放棄)の改正について、44%は「必要」としたが、46%は「必要ない」とした。さらに安倍総理の下での改憲には61%が「反対」し、賛成は38%にとどまった。
背景には憲法9条について、歴代政府が「日本は集団的自衛権を有するが現行憲法下では行使できない」としてきた解釈を、安倍内閣は内閣法制局長官を入れ替えたうえで「集団的自衛権の行使は限定的に容認されている」などとする解釈変更を行い、これに基づいて安保法制を与党の多数で押し切った。野党は、安保法制は一部「憲法違反」の状態にある、と是正を自らの政党公約にも上げている。この問題は解釈改憲以来、今も解決していない。
加えて、安倍総理友人の加計孝太郎氏が理事長を務める加計学園の大学に獣医学部を創設する際に活用された国家戦略特区制度。当初から「加計ありきでなかった」との疑惑が解明されていない。
昭恵総理夫人が名誉校長に一時就任していた森友学園へ国有地が8億円値引きされ売却された経緯についても、異例の特例扱いのうえに、値引き根拠となった地中のごみ量にも疑問が提起されている。これも解明されていない。
加えて「知る権利」の前提となる財務省による決裁文書の改ざん、隠ぺい。シビリアンコントロールが有効なのか不安になる自衛隊の日報問題。
今、もっとも危機感を持ち、政府・与党が真相解明に努めるべきは、これらの問題であり、この問題の解明ができなければ、安倍総理の下での改憲に不安と反対の声はさらに増えるだろう。行政への信頼関係が崩壊するからだ。
筆者も3日の憲法記念日に保守系改憲推進派団体主催の憲法フォーラムを訪ねたが「勉強して、しっかり自分の意見を持つ機運がまだ高まっていない」とする声が主催者側からも聞かれた。だから「改憲への理解を高めてほしい」と呼びかけもあった。これが現況だろう。
安倍総理の自民党総裁3選のための「改憲にいよいよ取り組む時」であってはならない。まず現行憲法の重みを再確認していくことが国民の間に広がっていくことから期待する。
自由党の小沢一郎代表は「歴史が証明するよう、時として『権力』は暴走する。個人を弾圧し、人権を抑圧することもある。だからこそ国家権力を縛り、権力を抑制的に、真に国民のために行使させるべく『憲法』というものがある。憲法とは、いわば長い歴史を持つ人類の英知の結晶である」(3日の談話)。この認識から現行憲法をまず、再度学んでいくべきだろう。(編集担当:森高龍二)