平成24年版高齢社会白書によると、日本における65歳以上の高齢者人口は過去最高の2975万人(前年2925万人)となり、総人口に占める割合(高齢化率)が23.3%となっている。国連の報告書において「高齢化社会」と定義されている水準が7%であることと比べると、その異常とも言える高さが再認識されるのではないだろうか。
高齢化社会が進むにつれ、シニア・高齢化市場と呼ばれる市場が拡大。その最たるものが医療・介護市場であろう。そんな中、特に注目を集めているのが、加齢が最大の危険因子となる認知症に関連する市場である。例えば、富士経済の調査によると、認知症治療剤の市場規模は2011年で前年比125.6%の1274億円。さらに2020年には2471億円と、2011年比で194.0%にまで拡大すると予測されている。この調査は、アルツハイマー型認知症治療剤のみを対象としていることから、脳血管性認知症などの他の認知症も加えると、その拡大幅はさらに大きなものとなるであろう。
厚生労働省のデータによると、認知症高齢者数は平成24年度で305万人と、高齢者人口の10%以上を占めている。社会の高齢化が進むにつれ、平成29年度にはこの数が373万人にまで拡大すると予測されており、この拡大がそのまま市場の拡大へと繋がる。また、インターネットインフィニティーが実施した「認知症に関する介護現場の実態調査」によると、全国の要支援者・要介護者における認知症患者数は204万人、疑いまで含めると255万人にも上るという。介護度が上がるほど認知症患者は増加し、要介護3以上では約60%に達するというから、介護市場の拡大は高齢化のスピード以上に早くなるのではないだろうか。
認知症患者の増加、その要因となる高齢化社会の加速に対し、医療・介護業界以外からの市場参入も見られる。博報堂<2433>のソーシャルデザイン専門組織hakuhodo i+dが、認知症患者とその家族を取り巻く課題をデザインの力で解決し、患者の方が自分らしく人生を楽しむことができる社会を目指す研究プロジェクト「認知症+designラボ」を立ち上げたのが好例である。こうした取り組みが広がれば、認知症に関する医療・介護以外の市場も一定の規模を確立するのであろう。
今年1月に、英国やフランス、オーストラリアなどの政府関係者や支援者が集まった「認知症国家戦略に関する国際政策シンポジウム」が開催されたことなどからも、認知症が世界的な課題であり、注目度が高いことが窺える。また日本においても、昨年厚生労働省が「認知症施策推進5カ年計画(オレンジプラン)」を発表。認知症対応力のある人員の育成や、地域での生活を支える医療・介護サービスの構築を掲げ、平成27年度以降には介護保険事業計画に反映させるとしている。これら日本、そして世界の認知症に対する取り組みの特徴は、可能な限り「家での生活」を支援していることである。昨年9月にエーザイ<4523>が発表した「47都道府県 認知症に関する意識・実態調査」でも、親が認知症になることへの生活への負担を意識しながらも、4人中3人が自宅での介護を希望しているという結果が出ており、需給が合致している。となると、昨年、流通業界で参入が相次いだ食品宅配市場も拡大が見込めるであろうし、住宅に関しても2世帯住宅やサービス付き高齢者向け住宅などへのニーズも高まるであろう。認知症に関する医療・介護以外の市場は、生まれたばかりであるだけに、無限にその可能性が広がっていると言えるのかもしれない。(編集担当:井畑学)