15歳から34歳で、非労働力人口のうち、家事も通学もしていない者。いわゆるニートと呼ばれるこうした若者は、厚生労働省の資料によると平成24年で約63万人にも上るという。経済成長を担い、社会保障制度の支えとなるべき若年者がニートとなることは、その担い手・支え手が減少するだけでなく、将来的には生活保護費のさらなる上昇を招く可能性があり、社会にとって大きな損失となる。こうした損失を避けるため厚生労働省は、平成18年度より「地域若者サポートステーション」において各個人に応じた相談を行い、その職業的自立に向けた支援を実施してきた。この「地域若者サポートステーション」事業につき、今後のあり方に関する検討会の報告書案が2月8日公表された。
平成22年度から一部の地域若者サポートステーションにおいて、高校中退者等に対する訪問支援や生活支援・学び直し支援を実施。これまで自ら訪れることのなかった、貧困、住環境、精神疾患を含む健康問題、債務問題等、複合的な問題を抱える者に対しても、その職業的自立に向けての支援を行うようになっていた。その結果、ニート化予防等の役割も期待されるようになってきており、報告書案では、学校との連携、特に中退者の多い学校との連携や、ハローワーク等との連携の強化が謳われている。しかし、殆ど具体的な対策や方向性は示されておらず、地域若者サポートステーションの普及や支援の仕組みが必要だと繰り返し述べられているに過ぎない。唯一具体的なものが示されているのは、平成24年度は116か所であった地域若者サポートステーションが、平成25年度には160か所に拡充されることぐらいのものである。
地域若者サポートステーションの支援による平成23年度の年間の就職等進路決定者は1万2165人だという。約63万人というニート全体の数からすると、決して誉められた数字ではないであろう。地域若者サポートステーションの絶対数が少ないことは否めないのかもしれない。しかし、若年者層が減少する中、ニートの増加は深刻な問題であり、喫緊の課題であるはずである。となると、平成18年度から進められてきた施策の報告書案としては、あまりにもお粗末でのんびりしたものなのではないか。実質的に定年年齢を65歳まで引き上げることを義務付けた高齢者雇用安定法の改正が円滑になされ、今年4月から施行されることと比べると、その悠長さが際立つであろう。
「仕事をしていないとうしろめたい」と感じているニートは82.8%に上るというが、これらの人が職を選び過ぎるとの指摘もある。さらに、ブラック企業と呼ばれる企業の存在が槍玉に上がることも少なくない。こうした状況で、働く気・学ぶ気のない者を職に就かせるのは一朝一夕ではないことは容易に想像がつく。かといって、若年層が働く場を奪うような施策が先行してしまっては、問題を長期化させ解決を先送りすることになる。また、先月発表された税制改革大綱において、高齢者から孫へ金銭を贈与する場合、一定額までは贈与税がかからないとする施策が盛り込まれた。大綱では教育資金に限るとしているが、実質的にはニート状態を継続する資金となる可能性を含んだものと言えるであろう。日本全体が好景気に沸き、若年者・高齢者ともに雇用出来るような環境が整えばよいのであろうが、円安が進み株価が上昇しているとはいえ、景気が回復したと言える状況ではない。それどころか、大手企業が相次いで大規模な早期退職制度を実施している。となると、人間関係に不安を持ち、専門技能を持つ者が少ないニートにとっての雇用環境は、益々厳しくなる一方である。試行雇用(トライアル雇用)などの制度も存在はするが、奨励金目当ての企業が短期間の安価な労働力を得るための制度と化している。一定規模以上の企業には高齢者と同数の若年者を雇用する義務を課す、ニートであったものは将来生活保護を受けられないなど、何か強引な策が必要なのかもしれない。(編集担当:井畑学)