注目を集める次世代パワー半導体。高耐圧製品の登場で市場拡大に大きな期待

2018年10月28日 10:44

発電

富士経済の調査によると、2017年のパワー半導体市場規模は2兆7192億円。2030年には4兆6798億円に拡大すると予測

 ハイブリッド自動車(HV)や電気自動車(EV)の普及に伴い、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)を用いた次世代パワー半導体の需要が急速に伸びている。

 富士経済の調査によると、2017年のパワー半導体市場規模は2兆7192億円。2030年には4兆6798億円に拡大すると予測。現在はSi(シリコン)ベースのパワー半導体が全体の約99%を占めているが、30年には全体市場の10%が次世代パワー半導体に移行するとみられており、SiCやGaNの需要は2017年の293億円から、30年にはおよそ12.2倍の3570億円にまで成長するとみている。

 次世代パワー半導体が注目される一番の理由は、圧倒的な省エネ効果だ。SiCパワー半導体はSiパワー半導体に比べて電力損失を70~ 90%削減できるといわれている。例えば、日本ではモータが総電力消費の約50%を占めているが、これをインバータ化やインバータの高効率化を推進することで、原子力発電所4基分もの省エネ効果が期待できると試算されている。また、SiCは1kV以上の高耐圧性能を持つことから、モータ駆動時に高耐圧が要求されるHV車やEV車などをはじめ、電力、鉄道、産業用途に拡がりを見せている。

 近年、SiCの中心となっているのは1200V耐圧品だが、各種アプリケーションでの高機能化に伴ってシステムの高電圧化が進んでいることから、1700V耐圧品の需要が高まってきた。しかし、信頼性の観点から商品化が困難とされ、現在は1700V耐圧品としては一般的に高耐圧、大電流に適したIGBT(絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタ)が使用されているのが現状だ。

 ところが、10月26日に日本の電子部品大手のローム株式会社が、1700V250A定格保証のフルSiCパワーモジュールの新製品を発表したことで、業界の状況が大きく変わりそうだ。同社が今回新たに開発したモジュール「BSM250D17P2E004」は、チップの保護対策として新しいコーティング材料と、新工法を導入し、高温高湿環境で業界最高水準の信頼性を確保することに成功した。例えば、同社が実施した高温高湿バイアス試験では、比較したIGBTモジュールが1000時間以内に故障の原因となる絶縁破壊を起こしたが、新製品は、85℃/85%の高温高湿環境で1360Vを1000時間以上印加した場合でも、絶縁破壊を起こさなかったという。

 また、同モジュールにはローム製SiC MOSFETおよびSiC ショットキーバリアダイオード(SBD)を採用することでモジュールの内部構造を最適化。同等クラスのSiC製品に比べて10%優れたオン抵抗性能を達成し、アプリケーションの省エネ化にも貢献する。

 今後、ますます高機能化が加速するであろう、自動車や鉄道、産業用途などにおいて、高耐圧のSiCパワーモジュールは必要不可欠なものになってくるに違いない。ただ、普及の障害となるのは、Siに比べて価格が高価なことだ。かつてはSiの数十倍ともいわれていたこともあり、それではいくら性能が良くても、さすがに普及しにくい。だが、これについても各メーカーの技術が加速し、周辺部品を含めたシステムトータルで見ればむしろ低コストになるレベルまできている。欧州や中国での省エネ規制の強化もあり、SiC市場は現在の予測以上に大きく伸びるのではないだろうか。高耐圧のSiCパワーモジュールが市場拡大の大きな光になりそうだ。(編集担当:松田渡)