2020年「省エネ住宅義務化」指針を撤回、国が“省エネ、「やめた」と決めた理由

2019年03月17日 11:34

画・自宅が売れなくなる?「省エネ基準」義務化。省エネ対策済43%。資産保全が目的。

ZEH(ゼッチ/ネット・ゼロエネルギーハウス)とは、一般住宅の高断熱化と省エネルギー型高効率設備などの導入で、室内環境を快適に保ったまま大幅な省エネルギーを実現する住宅だ

 経済産業省資源エネルギー庁は、2015年12月に発表した“ZEH普及に向けて「これからの施策展開」と題した発表で、「2020年までにハウスメーカーや工務店などのビルダーが建築する戸建て注文戸建住宅の過半数でZEHを実現すること」を目標とし、普及に向けた取り組みを進めるとしていた。

 ZEH(ゼッチ/ネット・ゼロエネルギーハウス)とは、一般住宅の高断熱化と省エネルギー型高効率設備などの導入で、室内環境を快適に保ったまま大幅な省エネルギーを実現する住宅だ。太陽光発電などでエネルギーを創る“創エネ”で、年間に消費する正味(ネット)のエネルギー量が概ねゼロ以下となる住宅のことである。

 この背景には、国内家庭部門における最終エネルギー消費量が石油危機以降約2倍に増加していることが挙げられる。これは国内エネルギー消費全体の15%程を占める。また、東日本大震災後に逼迫した電力供給やエネルギー価格の不安定化などを受け、家庭部門における省エネの重要性が再認識されてきたからだ。昨年のCOP24でも全会一致で、すべての国が、温室効果ガスの削減目標や達成の方法などを提出・説明する義務があり、2024年末までに、削減の実施状況に関する最初の報告書を提出することが盛り込まれた。

 ところが、政府は先の2月15日、「建築物のエネルギー消費性能向上に関する法律の一部を改正する法律案」を閣議決定。つまり、新築住宅の省エネ基準適合義務化(ZEH義務化)がご破算になり、開始時期そのものを見直すことを決めた。

 ZEHの普及で、家庭部門におけるエネルギー消費構造を抜本的に改善できると期待が高まっていたはずなのに……。なぜ、2010年から論議されてきた住宅の省エネ化が、1年後の実施を前に突然延期になったのだろうか。

 ZEH目標の達成に向け、2016年(平成28年)度のZEH支援事業、つまり補助金制度において、各社が受注・建設する一般戸建て住宅のうちZEHの割合を2020年までに50%以上とする目標を宣言・公表したハウスメーカー、工務店、建築設計事務所、リフォーム事業者、建売住宅販売業者などを「ZEHビルダー」として公募、登録し、屋号・目標値などを公表してきた。この公募・認定・登録などの実務を管轄するのは、一般社団法人「環境共創イニシアチブ」だ。

 住宅への省エネ基準適用が見送られた最大の理由がこれだ。つまり「工務店の省エネ住宅に対する習熟度の低さ」にあり、「ZEHビルダー」として登録できない住宅建設業者が続出したのだ。国土交通省によると「国内で約半数の工務店が省エネ計算できない」という衝撃的な資料が顕わにされた。同時に、注文住宅建設で施主が何にプライオリティを置くのか、「個人の住まい方に大きく依存し、省エネ義務化のような画一的な規制は馴染まない」とするビルダーも多いという。

 加えて、国交省の報告では、省エネ住宅を建てる際に届け出を提出する所轄の受け入れ体制整備の遅れを挙げる。省エネ義務化を実施し、小規模省エネ住宅の届け出が急速に増加すると行政が対応できない可能性があるという馬鹿げた報告もあるのだ。

 また、消費者の「省エネ住宅に対する意識の低さ」という側面をも挙げる。「ZEH建設によるコストの増加について、施主の理解が得られない」とする(省エネ計算ができる)工務店の声だ。コスト増の問題は、国交省の試算によると「床面積120平方メートルの場合、省エネ基準3等級から4等級にアップさせると87万円のコスト増」となる。これを毎月の光熱費削減で吸収するのは困難で、完全ZEHとしても築後10年経過すると太陽光発電システムの保証も切れる。加えて、余剰電力の売電も終わる。

 果たして、こうしたコストアップが消費者に受け容れられるか、という点にも疑問符が付いたということである。ただ、積水ハウスなど注文住宅大手のなかには、すでに2020年基準を先取りしてZEH化100%をほぼ達成しているハウスメーカーもある。省エネ住宅は“健康住宅”でもあるなどを積極的にアピールするメーカーの姿勢が問われる。(編集担当:吉田恒)