知る権利確保へ「新たな放送法制」構築を

2019年06月09日 14:24

画・進むテレビのネット配信 NHKの来春ネット同時配信に民放テレビ局はどう動く?

NHKは公共放送局として、不偏不党・だれからも、どこからも圧力を受けず、自主独立して報道機関としての活動を行い、国民の知る権利に資するため「国民から受信料」を得て、活動できるようになっている

 「NHKは権力に都合の悪いネタ(情報)は出させない」。森友問題で(地中に埋まっていたとされる撤去費用8億2000万円相当量のごみ)を『トラック何千台分も運び出したことにしてほしい』と森友学園側に財務省が口裏合わせを求めた、とする)記事を書いた相澤冬樹元NHK記者(現・大阪日日新聞論説委員)が森友問題への報道に対するNHKの報道姿勢を体感した表現が冒頭のカギかっこ。

 NHK問題を考える奈良の会の会合で講演した相澤氏は、口裏合わせは公文書改ざんとならぶ不祥事だが、「ニュース7では(ニュース)最後の項目。クローズアップ現代+では放送しなかった」と政府への忖度があったとの認識を示した。

 大阪府豊中市の市議が国有地払い下げ価格の不開示に提訴するとの記者会見を担当した際にも、相澤氏は開校予定小学校の名誉校長に安倍昭恵総理夫人が就任することと価格不開示に関係があるのではとの視点から書いた記事のリード文や本文から「安倍昭恵」氏の名が削除され、市議のコメント部分のみ削除されなかった、と明かした。カッコ内は市議発言でNHK直接のものではないからだ。ニュースは大阪のみで全国放送しなかった。

 近畿財務局が森友学園に国有地購入に支払える金額の上限を聞き出したというスクープ記事では放送後3時間後に東京報道局長から大阪報道局長に「なんでこんなニュースを出したんだ。あなたの将来はないぞ」と激怒する電話があった、という。相澤氏は大阪報道局長の近くにいたので電話の声が聞こえたそうだ。「記事を書いた自分には、さらに将来はないよね」と会場で笑いをさそったが、権力に忖度する姿勢が内蔵しているとすれば深刻だ。

 NHKは公共放送局として、不偏不党・だれからも、どこからも圧力を受けず、自主独立して報道機関としての活動を行い、国民の知る権利に資するため「国民から受信料」を得て、活動できるようになっている。時の政権、権力からの圧力に屈せず、国民のために伝えるべきことを伝えることが公共放送存在の軸になっていなければならない。

 相澤氏は「権力に都合の悪いニュースを出す気構えは、現場の職員にはある」と強調した。

 不偏不党と言いながら時の政権・政府に忖度する体質を作ってしまう要因として、NHK問題を考える奈良の会とNHK裁判原告団・弁護団は6月に発行した「NHK裁判・奈良の取組み」と題した冊子で「国民の代表である国会にNHKの予算、事業計画の承認や経営委員会委員の任命同意権限を委ねたが、『行政府である総務省がNHKを所管し、首相が国会の同意を得て経営委員の任命権限を持つこととした』ため、事実上、行政府がNHKを抑え込む仕組みができてしまった」と指摘する。

 言論と表現の自由に関する国連のデービッド・ケイ特別報告者はメディアの独立性を懸念するとともに、「政府による介入の根拠となる放送法4条の廃止が未履行」と指摘している。

 放送法1条二は「 放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」。放送法3条は「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」とある。

 政府は放送法4条(放送事業者は、国内放送及び内外放送の放送番組の編集に当たっては、次の各号の定めるところによらなければならない。 一 、公安及び善良な風俗を害しないこと。二、政治的に公平であること。三 、報道は事実をまげないですること。四、意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること)の規定を『倫理規定』でなく『法規定』だと解釈し、放送内容が「政治的に公平でなければ、電波停止も」などと「政府による介入根拠」にしている。放送法4条廃止を求める理由のひとつだ。

 NHK問題を考える奈良の会やデービッド・ケイ特別報告者の指摘を踏まえれば、さきに立憲・国民、共産、社民、社会保障の5党会派と市民連合が参院選で政策合意した13項目のひとつ「知る権利の確保のため、放送事業者の監督を総務省から切り離し、独立行政委員会で行う新たな放送法制を構築すること」が求められるのだろう。この取り組みの実現を期待したい。(編集担当:森高龍二)