車の電装化の課題は省電力、省スペース。最新ダイオードに垣間見える、日本企業最大の強み

2019年09月15日 13:39

電装化

電装化が進む自動車。ロームが9月10日に発表した200V耐圧のショットキーバリアダイオードなど、1センチにも満たない小さな部品の中に、日本の高度な技術力と豊富な経験が詰まっている。

近年の自動車産業を語る上で外せないのが「電装化」というキーワードだ。カーナビゲーションやキーレスエントリーなどの様々な装備品をはじめ、自動運転制御や運転支援などに欠かせないセンサやマイコン、ドライブトレインの電子制御など、自動車は今、内も外も、あらゆる方面で電装化への道を走っている。

 HVやPHVなど、電気自動車やハイブリッドカーだけではなく、通常のガソリン車でも燃費性能は昔と比べて格段に向上している。これも電装化による高度な電子制御技術の恩恵だ。

 また、電装化が変えるのは、自動車の性能や快適性だけではない。自動車の電装化に伴って、自動車業界そのものも大きく変容しつつある。これまで自動車業界では影が薄かったエレクトロニクス系企業の存在感が増しており、世界規模で業界の地図が大きく塗り替えられ始めているのだ。そんな混沌とした状況の中、日本の自動車企業、エレクトロニクス系企業に勝ち目はあるのだろうか。

 トヨタ〈7203〉によると、1台の自動車(ガソリン車)に必要な部品点数はおよそ3万点。数え方によっては部品点数の合計は10万点にものぼる。電気自動車のモーター周りの部品点数は、ガソリン車のエンジンに比べてよりシンプルな構造になるので、全体の部品点数も大幅に削減されるといわれているが、それでも1万点近くあるといわれている。エンジンとバッテリーの双方を利用したHVやPHVの市場もまだまだ成長をみせているほか、今後、さらに快適さやシステムの充実を求めて電装化が進めば、部品点数もそれにつれて増えていくだろう。

 自動車の電装化にとって共通の課題は、増え続ける車載電子部品をいかに省電力で動かし、その上でいかに省スペースに納めるかということだ。この点において、現状では日本の電子部品企業の技術は他国のそれより抜きん出ていることは間違いないだろう。

 しかし、それだけではこの先はもう、不十分かもしれない。電装部品の省電力化、省スペース化は日本企業がのシェアを獲得する上で最重要の戦略的課題であることは間違いない。でも、それは他国にとっても同じことだ。各国の大手電子部品企業も開発を進めており、いずれその差は縮まってくる可能性もある。

 とはいえ、悲観することではない。日本にはもう一つ、大きな強みがある。それは「信頼性」だ。

 クルマが人の命を載せて走るものである以上、安全以上に優先されるものはない。いくら省電力で省スペース、さらには安価な部品であっても、信頼に足らないものは採用されないだろう。そしてこの点において、日本の企業には勝機がある。

 たとえば、ローム株式会社〈6963〉が9月10日に発表したばかりのショットキーバリアダイオード(以下SBD)「RBxx8BM200」「RBxx8NS200」などが良い例だ。同製品はxEV をはじめとするパワートレインなどの車載システム向けに開発されたもの。で、これまで同社がリリースして日本国内の車載市場で非常に高い実績を誇っている、高温下でも熱暴走しない超低IR SBD RBxx8 シリーズの新製品で、 200V の高耐圧化を実現したものだ。

 IRとは、逆方向に電圧を加えた時に発生する、逆方向電流のことで、数値が小さいほど消費電力、つまり熱の発生量が少ない。SBDは効率性能に優れているものの、動作環境温度が高くなるにつれてIR特性が悪化し、熱暴走を起こしやすい傾向にあるという課題があった。そのため、高温環境下で使用される車載・電源機器の回路では、熱暴走の懸念から整流ダイオードやファストリカバリ―ダイオード(FRD)が一般的に使用されてきたが、 超低IRのRBxx8 シリーズであれば、熱暴走の懸念を気にせず使用することができるため、その意識が変わりつつあった。

 そして今回、200V耐圧品がラインナップに加わった。48V マイルドハイブリッドなどでトレンドになりつつある、モーターと周辺部品を 1 つのモジュールに納めた「機電一体」型のような高温環境下でも高効率のSBDで対応できるようになったことは大きい。

 また、FRD からSBD への置き換えによって、アプリケーション全体の低消費電力化が見込めるだけでなく、発熱低減によって小型パッケージでの設計も可能なために、アプリケーションの省スペース化にも貢献する。

 わずか数ミリの電子部品ではあるものの、その中にはいくつもの高度な技術と、経験の積み重ねがある。それこそが日本の最大の強みであり、日本製品らしさであり、ガソリン車から電気自動車へと移り変わったとしても揺るぎないものなのだ。(編集担当:藤原伊織)