熟練の技とは長年の経験からくる直感だ。「言葉で説明できるものではない」などと言われたりもする。熟練の技とは長年の経験の中で、身体で憶えたもので本人にとっては無意識的な判断や行動が多く含まれている。一方、AIとは計算機械によるシミュレーション(模倣)のことだが、一般のシミュレーションと異なるところは、自らデータという経験の集積によって新しい法則を見つけ出し学習して行くところにある。これを機械学習と呼ぶが、基本的には統計学の数理モデルである。
数学モデルなので論理的で意識的なものだ。このAIで熟練の技を再現するには熟練の直感と呼ばれる無意識のアルゴリズムを数学化しなければならず、そのためには膨大なデータとそれによる成功と失敗を経験させ法則性を発見させる必要がある。これまでその膨大な試行錯誤実験は実務上不可能とされてきた。
17日、NECが熟練者の意図を学習し、意思決定を模倣するAI技術を開発したことを発表した。一般に機械学習では強化学習と呼ばれる任意の環境下での最適行動を学習させるというアルゴリズムをとる。これは帰納的に最大の報酬を得るような最適な選択パターンを学習させるものであるが、NECでは最適行動から報酬を予測させる逆強化学習にNEC独自の異種混合学習を付加し熟練者の行動モデルを構築するという手法を採用した。
異種混合学習とは熟練者の行動履歴のビッグデータから複数の規則性を自動で導出しデータ属性(環境)に応じて参照する規則性を自動で切り替える手法だ。この手法によって状況が複雑に変化する環境下で最適な行動を選択する熟練者の行動を定式化することが可能になる。
NECはこの熟練AIをスポンサーの意向と放送枠の最適活用という複数の制約を持つTV放送局の広告スケジューリング業務に適用した。その結果、経験豊富な熟練者と同等レベルの意思決定を10倍以上のスピードで実現することを確認した。
この熟練AIは様々な分野に応用可能だ。自動運転やロボット制御などの物理・人工システム、営業活動やプラント運転など、制約条件が刻々と変化する不確実な状況で判断を下さなければならないが故に特定の熟練人材に頼っていた業務にまでAIロボット化を拡張することが可能となる。このAIの活用で非熟練者を含むチームメンバー全員が熟練者と同等の作業をすることが可能となり作業効率の向上が実現する。より詳しい開発の経緯・内容についてはホームページ上に掲載されている。(編集担当:久保田雄城)