10月25日、「ウッドデザイン賞」の受賞作品が発表された。ウッドデザイン賞は、木の良さや価値を再発見させる様々な製品や取組について、「暮らしを豊かにする」「人を健やかにする」「社会を豊かにする」という3つの消費者視点から、特に優れたものを評価し、表彰する顕彰制度で、2015年に創設され、今年で5年目を迎える。
近年、鉄筋コンクリート造の住宅や建築物、プラスチック製品などが巷に溢れており、木材が利用される機会が少なくなっている。しかしながら、その一方では戦後に造成された人工林が本格的な利用期を迎えており、適正な森林整備を進めていくためには、国産材の積極的な活用を促進する必要に迫られている。「木のある豊かな暮らし」を再発見し、木材利用の普及促進、さらには、現代社会に順応する木材の新しい可能性を見出すことは、環境面だけでなく、私たちの生活全般を潤すことに繋がるだろう。
そんな中、今年度のウッドデザイン賞には413点にものぼる応募が集まり、審査委員会による書類、現物審査を経て、197点の受賞作品が決定した。
ひと口に木を使った製品といっても、そのカタチは様々で、分野も多岐にわたる。
例えば、1993年にユネスコ世界自然遺産に登録され、海外からの観光客にも人気が高い屋久島の新庁舎も受賞作の一つだ。同庁舎は、島に残る在来軸組構法をベースにした木造大空間の建物で、島の豊かな自然の象徴である森林資源がふんだんに活用されたものとなっている。また、庁舎建設が足がかりとなって、今後の島の施設・住宅建設に資するよう、持続可能な木材の供給体制整備が行われ、大工に建設・維持管理のできる構法の計画である点も大きな評価を得た。
同じ建築関係でも、建築以外の分野で受賞している企業の製品もある。
2016年に中規模木造建築物「住まいと暮らしサロン」でウッドデザイン賞奨励賞(審査委員長賞)の受賞歴がある木造注文住宅メーカーの株式会社アキュラホームが今回受賞したのは、建物ではなく、何と世界で初めて開発・量産化に成功した「木のストロー」だ。
同社が開発した、木のストローとは、カンナ削りの技法を応用して0.15 ㎜にスライスした国産間伐材をストロー状に丸めあげたもの。接着には、安全性を確保した糊を新たに開発して配慮し、木そのものの素材感や味わいを感じることができる。主な素材として、 日本の人工林で最もシェアを占めるスギを使用しているが、樹種や節の有無に関わらず製作が可能なので、今後の展開として、国内の地域原産木を材料として活用することも期待できるという。間伐材の活用推進や価値向上だけでなく、今、世界中で課題となっている廃プラスチック問題の解決策としても注目されており、今年夏に開催されたG20大阪サミットなどでも世界に向けて紹介されるなど、随所で話題となっている。まさにウッドデザイン賞の趣旨に沿った、ふさわしい製品といえるのではないだろうか。
また、形のある製品ではなく、取り組みが認められたものもある。
今年3月に東京江東区の深川公園で開催された、木と触れ合うイベント「The 深川 Wood Fes」だ。同イベントは、「木と暮らす、木を楽しむ」をテーマに、深川観光協会・旧木場プロジェクト深川ウッドフェス実行委員会が中心となって、地元の材木業者の協力の下で開催され、木工など様々なワークショップや、木のアイテムを販売する店や地元の飲食店などが出店。地元の住民を中心に大いに盛り上がった。とくに、木のおもちゃや木工作品を作るワークショップは、子どもだけでなく親にとっても、木とふれあう貴重な体験となったようだ。こういった地道な活動がしっかりと取り上げられることで、今後も続けて開催されるための後押しになれば、ウッドデザイン賞という奨励制度が持つ意味も大きくなる。
プラスチックや鉄、コンクリートなどは確かに便利なもので、現代社会を築いてきたものだ。しかし、便利だからといって、豊かであるとは限らない。ウッドデザイン賞の受賞作を見ていると、木の温かさの中に、現代社会が忘れかけている大切なものが見えてくるようだ。
ウッドデザイン賞2019はこの後、受賞197点の中から最終審査が行われ、最優秀賞(農林水産大臣賞)1点、優秀賞(林野庁長官賞)数点 、奨励賞(審査委員長賞)数点、特別賞 (木のおもてなし賞)数点が選出され、11月20日に発表される。また、表彰式は12月5日に催され、受賞作品の展示、セミナーは「エコプロ2019」 (東京ビッグサイト)内にて開催される予定だ。(編集担当:藤原伊織)