徹底した平和教育、人権尊重教育こそが大事

2019年12月15日 09:37

弁護士後援会

平和教育と司法の独立が最重要と語るロベルト・サモラ弁護士

 安倍晋三総理は与党が臨時国会延長を拒否して閉会の決まった9日夕の記者会見で「憲法改正を必ずや、私の手でなし遂げていきたい」と約2年の任期の間に実現したい旨語り、「おしりを切った」。

 憲法改正に「おしりを切る」姿勢への批判をかわす狙いがあるのかどうかは分からないが、安倍総理のために自民党総裁任期「連続3期まで」と党規則を改定したばかりにも関わらず、麻生太郎副総理は4期を認めるような発言をしている。

 政府・自民党執行部は、行政は当然のこととし、政治活動でも「自分たちのご都合主義」は改めるべき。自民党の党規則はそこまで軽いものか。「行政の私物化」にとどまらず「党の私物化」も進んでいると批判されても仕方あるまい。

 さて、本題だが、安倍総理の目指す憲法改正目標は「憲法9条への自衛隊明記」と「緊急事態条項」の創設。自衛隊明記で集団的自衛権行使範囲の解釈が変わる。また憲法9条解釈の変更を閣議決定し集団的自衛権の行使を一部容認した安保法制以降、自衛隊入隊者は定員割れを続けていて、防衛大学校卒業時に任官を拒否する学生も増え続けている。

 自衛隊入隊者が少子化の影響とあわせて減り続ければ、必然的に人材確保に「徴兵制」が敷かれるのではないかと危機感を抱く10代、20代の子を持つ保護者も出ている。筆者も中道系野党のイベントに参加された市民から今月、心配する声を聞かされた。

 安倍総理は国会答弁で「徴兵は憲法が禁じた『苦役』に当たる」として「徴兵はあり得ない」としているが、自民党の石破茂元幹事長は「国家を守るための徴兵が苦役というのには違和感がある」とする。

 改憲で自衛隊が憲法に明記されれば、徴兵は「苦役」との解釈から「国民としての義務」に変わると思われる。憲法に明記された「自衛隊」への入隊義務が「苦役」と解されることは考えられない。改憲時に「徴兵制は認められない」との規定を追記して担保すれば話は別だが。

 また緊急事態条項は非常時に政府に権限を集中させ立法権を付与するもの。「国民主権」「議会制民主主義」「三権分立」を定めた憲法を無視した『政府への権力集中』は「時の政府の国家権力乱用による国民の権利・自由、基本的人権への最大の侵害者になりうる」危険をはらんでいる。多くの弁護士会もこの点を指摘し、自民党の憲法草案にある『緊急事態条項』創設に反対している。

 では他国から領空・領海・領土が侵犯される事態が生じたらどうするのか。一時的に凌ぐ「自衛のための必要最小限度の実力部隊と防衛装備」は現行憲法でも認めていることは定着している。

 ただ安倍政権がその枠を拡大し続け、世界の軍拡競争に乗じることの見直しが必要だ。自民党内には「敵地攻撃能力を装備すべき」との意見さえある。平和憲法の精神に照らし逸脱している。

 先日、「常設の組織としての『軍隊』はこれを禁止する」と憲法で規定し、軍隊をなくした国、コスタリカの弁護士、ロベルト・サモラ氏の講演を聞く機会があり「コスタリカでは隣国から領空・領海・領土が侵犯された場合、軍隊を持たずにどう対応するのか」とお聞きした。

 コスタリカはパナマとニカラグアに挟まれた位置にある。カリブ海や太平洋に面する小さな国家。サモラ氏は「ニカラグアが2010年に国境を侵攻した例がある。しかし発砲することなく、軍事的な行動を起こすことなく、国際法廷(国際司法裁判所)に訴え、決着した。約5年かかった」と述べた。

 サモラ氏は「大変な勇気が必要だったが、平和を求める行動の結果を信じて国際法廷に訴えたということです」とその選択に国としての誇りをうかがわせた。国際機関、国際法廷を防衛手段に、国際紛争を平和的に解決した。

 サモラ氏は講演の中でこうした勇気を育てるために「平和教育が重要だ」と述べるとともに「政権から司法権の独立を守ることが重要です」と強調した。「司法権が独立していなければ、憲法解釈が歪められてしまうからだ」とその理由を語った。

 サモラ氏の講演時に頂いた資料には1986年~90年、2006年~10年にわたりコスタリカ大統領に就任し、ノーベル平和賞を受けたオカルス・アリアス氏へのインタビュー記事が掲載されていた。

 アリアス元大統領はインタビューに答え「軍隊を廃止したことによる一番の影響は『平和への配当』を国民が享受できるようになったことです」と語っている。「軍隊がないことによって、武器を買ったり、軍隊を維持したりすることに費やされてきた資源を、教育・健康・環境、国際競争力の向上に使えるようになった。これは平和の配当です」と語っている。

 コスタリカに学ぶべきところは大きい。少なくとも、日本にとって最も重要なことは「防衛装備」という名の上限ない「軍拡」ではなく、学校・社会における「平和教育」と国家が保障するものではなく、人として生まれながらにして有し、決して侵すことのできない永久の権利である「基本的人権」の尊重という憲法の基本原則に基づく教育の徹底、三権分立(立法・司法・行政)の徹底を図ることといえよう。(編集担当:森高龍二)