年末が近づいてくると、途端に世の中が慌ただしくなってくる。中でも、年末年始をふるさとや行楽地で過ごそうと考えている人たちにとっては、帰省ラッシュやUターンラッシュの混雑状況が気になるところだ。
公務員や官公庁は通常12月29日までの勤務だが、今年は28日が土曜日となるため、例年通りのパターンを踏襲すると仮定すれば、帰省ラッシュの下り線のピークは12月28日、Uターンラッシュの上り線のピークは1月3日になるのではないかと予測できる。
遠方への帰省や行楽で行き先や過ごし方以上に悩んでしまうのが、移動手段の選択ではないだろうか。自家用車を使えば、予定はある程度自由に組めるし、面倒な予約もしなくて済む。しかし便利な一方で、一旦渋滞に巻き込まれてしまうと、目的地に到着するまでに通常の何倍もの時間がかかってしまう可能性もある。そして、車移動で何よりも心配なのが事故だ。年末年始はとくに交通事故が多発する。いくら安全運転に気を付けていても、巻き込まれてしまうことだってあるのだ。
その点、日本の新幹線は安全面では世界トップレベル。年末年始の繁忙期といえども、事故の心配はほとんどないだろう。
日本政府も現在、安心安全で快適な日本の新幹線技術の輸出を全面的に後押ししており、官民一体の国家プロジェクトとして、安倍政権の成長戦略の柱としても盛り込んでいる。
JR東海などが中心となり新幹線技術の国際標準化を目指す国際高速鉄道協会(IHRA、アイラ)も、米国やアジア太平洋向けの新幹線の輸出に乗り出しており、すでに2007年に開業した台湾高速鉄路で日本の新幹線システムが導入されたのを皮切りに、インドでも ムンバイ―アーメダバード間で2023年に開業予定の高速鉄道が新幹線方式の採用を決定し、国や経済を変えるきっかけになると期待されている。
新幹線には、様々な最新技術が盛り込まれているが、JR東海が来年度に投入を予定している、N700系以来のフルモデチェンジとなる次期新幹線車両「N700S」は駆動システムに次世代パワーデバイスのSiC(シリコンカーバイド)素子が採用されていることでも、世界から注目を集めている。
SiCとは、絶縁破壊電界強度がSi(シリコン)の10倍、バンドギャップがSiの3倍優れているといわれる化合物半導体材料のこと。デバイス作製に必要なp型、n型の制御が広い範囲で可能であることなどから、Siの限界を超えるパワーデバイス用材料といわれている。
SiC素子のメリットの一つは、低損失で発熱が少ないことから冷却方式の軽量化が可能であり、、システム全体の徹底した小型軽量化を実現することができる点だ。「N700S」では冷却方式と組み合わせることによって、従来のSi駆動システムと比べ、約20%もの軽量化を実現している。
ちなみに日本はSiC素子の技術開発で世界をリードしており、半導体分野の中で最も将来が期待されているものだ。SiC素子の開発と活用には、材料技術や応用技術などと同時に、それらデバイス技術の高度な擦り合わせが求められるため、海外よりも日本のモノづくり企業に分がある。
例えば、電子部品大手のローム〈6963〉などは、2010年にSiCのMOSFETを世界で初めて量産したリーディングカンパニーである。EVなど自動車分野にも自社のSiC技術を次々と展開しており、産業機器に向けたフルSiCパワーモジュールの開発も進んでいる。日本国内の電子部品企業の中でもトップクラスだ。
残念ながら、この年末年始には「N700S」に乗ることはできないが、現行の新幹線も日本技術の粋を集めたシステムとなっている。安全に新しい年を迎えられるよう、帰省時の移動手段には新幹線を利用してみてはいかがだろうか。(編集担当:藤原伊織)