消費者の安全・安心志向の高まりや生産者の販売形態の多様化が進む中、「地元で生産されたものを地元で消費する」、いわゆる「地産地消」を進める動きが拡大している。
地産地消といえば、まず最初に思い浮かぶのが農作物だろう。政府も「食料・農業・農村基本計画」の中に地産地消を食料自給率の向上に向け重点的に取り組むべき事項として盛り込むなど、農業の地産地消は国を挙げて積極的に推進されている。
しかし、地産地消は何も、農作物だけに限ったことではない。
例えば、高知県では「ものづくりの地産地消」という取り組みが進められている。「ものづくりの地産地消」とは、県内で必要とされる機械設備の製造や食品加工などの付加価値を生み出す「ものづくり」の工程をできる限り県内で行うことによって、県の産業を活発化しようとするものだ。
高知県では、人口減少、高齢化が全国に先行しており、それに伴って県経済も縮小しつつある。
経済の縮みは若者の県外流出を加速させてしまう。この負のスパイラルを食い止め、地域経済を根本から元気にするためのトータルプランとして、県が策定した産業振興計画の一つが「ものづくりの地産地消」なのだ。
県内で必要とされる製品を県内で作り出すことで地元の産業の繋がりの強化と発展を図り、官民一体となって地産外商に取り組む。そうすることで、地域経済の浮揚とともに、若者たちにも働きやすい地域環境を作り上げていく。これは高知県だけに限ったことではなく、働き手の減少とともに経済が縮小傾向に向かっている多くの県にとってもあてはまることで、事業開始3年目を迎えた今年、その成果に注目が集まっている。
また、神奈川県でも、さまざまな社会問題を解決へと導く、ユニークな地産地消の取り組みが始まった。それが、紙のようにスライスした薄い間伐材から作られる「木製ストロー」だ。山梨県の道志村の山奥に横浜市の水道の水源地がある。この森は、山梨県でありながら横浜市が管理している。
山林の傾斜は急で、細く弱い木が増えすぎると、土砂崩れなどが起きてしまう。このため、定期的な間伐が欠かせない。この間伐材の一部を長さおよそ30cm、薄さ0.15mmにスライスし、巻き上げて「木のストロー」に加工する。加工作業を担うのは、横浜市内の障がい者雇用施設だ。1本1本、手作業で丁寧に、筒状のストローに丸めていく。そうして完成した木のストローは、横浜市西区のホテル「横浜ベイシェラトン ホテル&タワー」をはじめ、横浜市内で普及していく予定だ。
もともと、この木のストローは、木造住宅の建築と販売を手掛けるアキュラホームが開発したもの。同社では、カンナ削りの技法を応用して、この木のストローの開発に取り組み、約一年をかけて巻き上げの機械化に成功。世界で初めて、木のストローの量産化を実現した。これに目を付けたのが横浜市で、間伐材の有効活用と森林の保護、障がい者雇用の促進を目的に、県の地産地消事業として導入したのだ。
また、この木のストローは、世界的な課題となっている廃プラスチック問題対策としても注目されており、現在ネックとなっているコストダウンさえ図れれば、日本のみならず世界中の地域や国々で採用されていくのではないだろうか。その際には、横浜市の取り組みはきっと最良のモデルケースとなるに違いない。
地産地消。農作物だけには収まらないその可能性に今後も注目していきたい。(編集担当:藤原伊織)