教科書に国民全員が関心を持ち続ける事の重要性

2020年03月29日 09:20

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文科省が来年4月から中学校で使う「教科書」の検定結果を24日公表した

 文科省が来年4月から中学校で使う「教科書」の検定結果を24日公表した。社会科の歴史教科書に「南京事件」「従軍慰安婦」といった記述があり、客観性の高い内容になっている。大学教授らでつくる文科大臣の諮問機関「教科書検定審議会」が政治介入のない環境が一定機能したといえよう。

 特に教科書の歴史記述における客観性は重要だ。南京事件などの記述に自虐的とする声もあるが、誤った行為における反省の上に立ってこそ、成長はある。国家が都合のいいように史実を歪めたり、特定思想の形成に利用したりすることはあってはならない。

 今回、不合格となったが、新しい歴史教科書をつくる会が進める自由社の皇室に関わる部分、仁徳天皇に関する記述では「日本の皇室は神話の時代から現代まで続く」とあり、検定では『神話を史実と誤解する』と指摘。「仁徳天皇は世界一の古墳に祀られている」との記述には『表現が一般的でない』とした。

 「祀る」という表現は精神性や宗教色が強い表現で、宗教法人や信者が自ら崇敬する神社や寺院に対し、祭主を表現するのには問題ないが、教科書における古墳紹介では「被葬者」が誰かに過ぎない。感情の入らない客観的な事実のみを表現した記述こそが大切だ。

 検定にパスした教科書では従軍慰安婦について「戦地に設けられた『慰安施設』には朝鮮・中国・フィリピンなどから女性が集められた(いわゆる従軍慰安婦)」(山川出版)との表記が認可された。

 南京事件では「首都の南京で占領し、その過程で、女性や子どもなど一般の人々や捕虜をふくむ多数の中国人を殺害しました」(東京書籍)、「占領した首都の南京では捕虜や住民を巻き込んで多数の死傷者を出しました」(教育出版)などのほか、リアルな描写の囲みも認定された。

 学び舎の囲み資料は当時8歳だった夏淑琴(シアスーチン)さんが目の前で起きたことをそのまま描写したもので、「昼近くに銃剣を持った日本兵が家に侵入してきました。逃げようとした父は撃たれ、母と乳飲み児だった妹も殺されました。祖父と祖母はピストルで、15歳と13歳だった姉は暴行されて殺されました。私と4歳の妹はこわくて泣き叫びました。銃剣で3か所刺されて、私は気を失いました。気がついたとき、妹は母を呼びながら泣いていました。家族が殺されてしまった家で、何日間も妹と二人で過ごしました」と記載している。

 衝撃的な描写だが、日本が歴史の中の一時期、自国の都合で中国など周辺国に侵略戦争を行った歴史的な過ちを犯し、その反省の上に立って、現在の平和憲法(憲法9条、戦争の放棄)を保有することとなったことを認識することにもつながり、重要な資料提供といえよう。

 今回の検定結果に不満を抱く「歴史修正主義」勢力は検定の在り方に不満を抱き、見直しを求めるかもしれない。しかし、教育基本法16条(教育は不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり、教育行政は=中略=公正かつ適正に行われなければならない)ことを順守すること、教育行政、教科書に対して国民全員が関心を持ち続けることが重要だ。

 今回の検定が完璧ということもない。東京新聞が「公民教科書」についてとりあげたどこかの教科書の記述に対する指摘でも一端がわかる。それによると「二大政党制」をめぐる記述で、当初の表記を修正したと伝える修正後の文言でも「自由民主党以外に安定的に政権を担うことができる政党が形成されなかった」と自民党を評価する記述といえそうな表現になっている。これはさすがに問題記述だ。元文部科学事務次官の前川喜平現代教育行政研究会代表は「こんな検定、やったらだめ」とツイッターで駄目出しした。

 こうした点でも教科書には関心を寄せ続けることが大事。5月からは検定修正過程がわかる資料が東京、高知、岐阜、北海道、宮崎、和歌山、茨城の図書館などで公開される。詳しくは文部科学省HPに告知されている。(編集担当:森高龍二)