「酒飲みは甘いものが苦手だ」。これは日本人の間では半ば常識ではないだろうか。しかし、遺伝子生物学の世界では、これと真逆のことが報告されていた。つまり、「甘味への嗜好が強いほどアルコール消費が多い傾向がある」とされていた。
しかし、これはアジア人以外をサンプルとしたものである。甘味への嗜好は地域によって異なり、また遺伝的な要因が関わることがこれまでの研究で判明している。欧米の研究グループからも甘味への嗜好の個人差の約50%は遺伝要因が占めるという報告もあり、甘味に限らず様々な味覚への嗜好性に影響するゲノム中のSNP(一塩基多型)が判明している。つまり塩基配列の1個が異なるだけで味覚の嗜好性は大きく異なる。SNPは地域による分布差が大きいため、欧米人を対象とした研究結果が必ずしも日本人に当てはまるとはかぎらない。
東京大学大学院農学生命科学研究科の加藤久典特任教授らは株式会社ジーンクエストと共同で日本人約1万2000人のゲノム情報とWebアンケート情報を用いて甘味に関する遺伝子分析を行った。その結果、ヒト12番染色体上の「rs671」というSNPが甘味への嗜好性に関連していることを明らかにした。
関連が明らかになったrs671は東アジア人に特有で、それ以外の地域ではほとんど見られない。また、アルコール代謝に関わるアルデヒドデヒドロゲナーゼ2遺伝子(ALDH2)に存在し、酒への強さと関連していることが知られており、解析の結果、酒に弱い遺伝型は甘味への嗜好性が強い傾向があることが分かった。
アジア集団以外を主な対象とした研究では「甘味への嗜好が強いほどアルコール消費が多い」となっていたが、この研究では「甘味への嗜好が強いほどアルコール消費が少ない」という真逆の結果だ。さらに、rs671と甘味への嗜好性との関連を男性と女性に分けて解析した結果、男性でより強い関連が認められた。つまり、日本人では「酒に強い人ほど甘味が苦手、酒に弱い人ほど甘味が好きで、男性の方がこの傾向が強い」ということだ。これは日本人の常識と合致しているのではないだろうか。
研究チームは「本研究成果は味覚の嗜好性に関する遺伝的背景を解明する一助となるほか、糖尿病予防や肥満治療などにも応用できる」としている。(編集担当:久保田雄城)