もっとも身近なIoT「スマート家電」が今、注目されている。ドイツの調査会社Statistaのレポートによると、スマート家電などを含むスマートホーム関連産業の世界市場は欧米を中心に急速に拡大しており、2020年の6兆円規模から、2030年までの10年間で7倍以上の45兆円にまで成長すると見込んでいる。
とはいえ、日本社会においては認知度が高い割には、まだまだ普及しているとは言い難い状況ではある。とくに中高年層には「何もわざわざスマホで家電を操作しなくても」という否定的な意識が強いのではないだろうか。しかし、スマートスピーカーなどが若者世代を中心に徐々に広がりつつあること、さらには新型コロナ禍の影響で、自宅で過ごす時間が増えたことなどによって、 スマート家電の便利さが再認識されつつある。
一方、消費者の観点からすると、気になるのは電気代の問題だ。ただでさえ高機能化に伴って、白物家電の消費電力は昔に比べて大きくなっている。そこにWi-Fi 等で通信を行う機能まで搭載されれば、常時通電して、通信接続を維持しておかなくてはならないため、いわゆる待機電力も上がる。かといって、音声やスマホで操作をするために、いちいちコンセントを差し直したり、スイッチを押さなければならないようなら本末転倒だ。
もちろん、家電メーカーもこれに厳しく対応してきており、モータ部や電源部の待機電力の改善を進めてきた。実際、電源ICの省電力化はすでに限界の域に達しているともいわれているほどだ。
しかし、待機電力に関してはそれら以外にもう一つ、メーカー側もこれまで着手していなかった大きなポイントが隠されていた。それが「ゼロクロス検知回路」といわれる、電源IC以外の場所だ。
ゼロクロス検知回路とは、コンセントなどから入ってくる交流電圧の電圧0V地点を検出する回路のことだ。そう言われても、専門家でもなければちんぷんかんぷんかもしれないが、早い話が、ゼロクロス点とは、モーターや家電の頭脳ともいえるマイコンなどを効率よく動かすために、必要な基準点のことである。このゼロクロス検知回路を用いることでモーターやマイコンを効率的に動かすことができるようになり、部品の劣化や品質の低下を抑止する効果もあるという。ところが、従来のゼロクロス検知回路の消費電力はアプリケーション全体の待機電力のうち、1/2 程度も占めているというのだ。
ここに着目したのが日本の電子部品メーカー・ローム〈6963〉だ。ロームは、従来のゼロクロス検知回路が一般的に、入力電気信号を光信号に変えるフォトカプラという素子を使用していることに着目し、業界で初めてフォトカプラなしでゼロクロス検知可能なIC を開発したのだ。そして、このICを用いることで、Wi-Fiなどを搭載する最新式の洗濯機の待機電力を約47%も削減したという。しかもこのゼロクロス検知ICは日本だけでなく世界中の電源電圧に対応しており、従来のゼロクロス検知回路から簡単に置き換え可能というから、世界中の家電メーカーで採用が進みそうだ。
洗濯機や冷蔵庫など、古くから社会に浸透している家電をわざわざIoT化するのには抵抗があるかもしれない。ネットやスマホを介することで、操作が複雑になってしまうような印象を持っている人も多いだろう。でも、一度でも使ってみると、途端にその便利さを実感する。毎日使う、最も身近な白物家電だからこそ、IoT化は必要なのだ。まだスマート化が進んでいない家庭は、一度自宅の家電を見直してみてはいかがだろうか。(編集担当:藤原伊織)