秋田、山口への陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」設置計画の頓挫と同時に当然のように自民党は防衛族を中心に「敵基地攻撃能力の保有」正当化への議論をスタートさせた。
2017年当時、自民党は北朝鮮のミサイル発射実験頻発化を追い風に、巡航ミサイルなどで敵基地(ミサイル発射拠点)を破壊する攻撃能力を保有するよう、政府に求めてきた経緯がある。
その中心人物が小野寺五典元防衛大臣だった。当時、岩屋毅防衛大臣は慎重姿勢で、防衛計画に盛り込むことをしなかった。イージス・アショア設置計画頓挫で改めて党内で動き出した「ミサイル防衛検討チーム」。
チーム座長は小野寺氏だ。前回の要請より理論的に厚みを持たせて国民の理解を得られるよう、正当性と妥当性を研究して提言することになるのだろう。ある種、結論ありき、理論武装強化のためのチームの感がある。
忘れてはならないのは、侵略戦争を犯した過去の歴史的反省の上に立って生まれた日本国憲法の精神と第9条1項、2項(戦争の放棄・戦力不保持)の規定からは「敵基地攻撃能力保有」が自国防衛のための『必要最小限度の実力部隊と装備』に収まるといえるのか、保有の是非については、憲法9条の「戦力」議論を抜きに容認される『国家政策』ではない。
この提起には、自民党はじめ敵基地攻撃能力保有推進論者は鳩山一郎総理が1956年当時に衆院内閣委員会で「わが国に攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨と考えられない。他に手段がない限り(敵)基地をたたくことは法理的に自衛の範囲に含まれる」と答弁していることを引き合いに、議論は終了していると主張するだろう。
しかし、敵基地攻撃能力の保有は抑止力効果以上に、周辺国に緊張感を与え、戦後一貫してきた平和憲法の下での外交努力による「紛争抑止と紛争解決」、日米安保に基づく「盾」と「矛」の役割分担を崩しかねない危険性がある。
安倍政権下で防衛費用は過去最大を毎年更新し続けている。国民は「日本の立ち位置」を忘れてはいけない。過去の歴史の反省の上に立って現行の憲法が存在し、憲法の精神の下で脈々と平和維持のための外交努力が行われてきた。「敵基地攻撃能力」を現行憲法下で「戦力に値しない」と説明できるのか。
敵基地攻撃能力保有が正当化されれば、保有後も質・量の拡大が必要と拡大の流れが容易に予測される。その行きつく先には「日本が攻撃を受ける極めて緊迫した状況にある」などとして敵基地への先制攻撃までが正当化されかねない。
この問題は戦後一貫して国民が支持してきた「専守防衛」の国是までを逸脱させかねない重大な案件だ。日本共産党は機関誌「赤旗」で「憲法に反するのは明らか」としたうえで「専門家の意見として「核の報復攻撃の危険も(でてくる)」と警鐘を鳴らしている。
安倍政権は安全保障を「軍事力」(実力部隊と装備)拡充を背景にすすめることに頼りすぎる。護衛艦「いずも」の空母化に加え、F35Aに加え、空母化した「いずも」に艦載する米ステルス戦闘機「F35B」(短距離離陸、垂直着陸)の導入も。軍事力を担保にするのではなく、外交による信頼関係構築に専念することこそ、求められる防衛政策ではないのか。自民・公明の政権に原点を忘れない政策を期待する。(編集担当:森高龍二)