京都の電子部品関連3社の中間決算に明るい兆し。中・長期の投資意欲は旺盛

2020年11月08日 07:40

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京都市やその近郊に本社を置く日本電産、ローム、村田製作所の電子部品「京都3社」は、米中貿易摩擦や新型コロナウイルスの流行で打撃を受けた業績が早くも上向いている

 京都市やその近郊に本社を置く日本電産、ローム、村田製作所の電子部品「京都3社」は、米中貿易摩擦や新型コロナウイルスの流行で打撃を受けた業績が早くも上向いている。10月30日に出揃った4~9月期(第2四半期)中間決算は3社とも当初予想を上回り、中国での生産回復、在宅勤務など国内の「巣ごもり需要」が追い風だった。村田製作所は中間期で減益予想が増益に変わり、日本電産と村田製作所は期末業績見通しを上方修正し、ロームは中間期で当初予想より減益幅が縮小した。3社とも中・長期の成長をにらみ、設備投資やM&Aへの投資には意欲的だ。

■日本電産は車載の減速を原価改善で補い増収増益

 日本電産の4~9月期決算(国際会計基準/IFRS)は、売上高は0.1%増の7517億円、営業利益は12.0%増の691億円、税引前利益は4.2%増の660億円、四半期純利益は79.2%増の487億円だった。前年同期比で売上高は増収を確保し、利益も増益。最終利益は大幅に伸びている。中間配当は前年同期55円に対し30円とした。(2020年4月1日付で普通株式1株につき2株の株式分割を行っている。)4~9月期最終利益の通期見通し(上方修正済み)に対する進捗率は46.4%である。
 
 カテゴリー別では創業以来の製品グループ「精密小型モータ」が外部売上高1.7%増、営業利益32.5%増、「家電・商業・産業用」が外部売上高1.0%増、営業利益18.3%増とまずます堅調で、売上高利益率も伸びたが、最重点分野の「車載」が外部売上高1.1%減、営業利益67.6%減と悪く、売上高利益率も9.0%から2.9%に低下して利益全体の足を引っ張った。車載分野で減収幅が大きかった製品はアクチュエータ製品、コントロールバルブで、円高の影響も約11億円の減収要因になった。需要が急拡大中のトラクションモータシステム「E-Axle」などの開発費負担が重く、その先行投資が営業利益を押し下げた。一方、精密小型モータは「巣ごもり」によるクラウド需要の高まりでデータセンター向けが、リモートワーク需要の高まりでノートパソコン用がともに販売好調なHDDモータは8.5%の増収で、その他小型モータの2.1%減収を補った。この分野は家電・商業・産業用とともに「WPR4プロジェクト」のによる原価改善、固定費適正化の成果が出て2ケタの営業増益だった。「機器装置」「電子・光学部品」の製品グループも減収ながら2ケタ営業増益で、これも同プロジェクトの効果があらわれている。
  
 中間期の業績が予想を上回る回復を示したことを受けて通期の業績見通しを上方修正し、売上高は500億円引き上げて1.0%増の1兆5500億円、営業利益は150億円引き上げて29.0%増の1400億円、税引前利益は110億円引き上げて29.3%増の1360億円、当期純利益は50億円引き上げて79.6%増の1050億円とした。想定為替レートは1米ドル=105円、1ユーロ=117円で変更なし。期末配当予想は前期比30円減配の30円で、予想年間配当は前期比55円減の60円の見込みとなっている。(ただし、2020年4月1日付で普通株式1株につき2株の株式分割を行っている。)
 
 永守重信会長は「シェア45%奪取」を目指す電気自動車(EV)用駆動モータに最大1兆円規模を投資すると表明し、約2000億円を投じて東欧のセルビア共和国にその専用工場を設け、中国に次ぐ拠点とする。2050年までに温暖化排出ガス実質ゼロを目指すEU市場に対し、セルビアからEV用モータを供給する。米中貿易摩擦やコロナ禍の影響に直面しても、中・長期の成長に向けての日本電産の投資意欲は全く衰えていない。

■ロームは減収減益でも悲観的な見方が後退

 ロームの4~9月期決算(日本基準)は、売上高は11.0%減の1680億円、営業利益は28.6%減の126億円、経常利益は37.3%減の117億円、四半期純利益は8.7%減の125億円という減収減益決算だったが、7~9月期の健闘で利益は当初予想(営業利益70億円、経常利益55億円、四半期純利益73億円)よりだいぶ上の水準で着地できた。中間配当は前年同期から据え置きの75円としている。4~9月期の最終利益の通期見通しに対する進捗率は65.9%である。
 
 セグメント別では、LSIの売上高は前年同期比11.6%減、セグメント利益は40.6%減。電源用LSI、各種ドライバICなどの自動車向けやスマホ、AV機器向けは厳しかったが、産業機器のFA向けは下げ止まり、パソコン向けはテレワークなど「巣ごもり」の需要で増収だった。半導体素子は売上高8.1%減ながらセグメント利益は0.8%増で前年同期比プラスに滑り込んだ。トランジスタ、ダイオード、パワーデバイスとも自動車向けは減収が続いたが、中国の生産回復でFA向けが改善し、パソコン、ゲーム機用の半導体レーザーは家庭の「巣ごもり」によって売上増。モジュールは自動車向けも決済端末向けも悪く売上高17.4%減、セグメント利益49.8%減。抵抗、コンデンサなどその他の分野は自動車用の減速で売上15.1%減、セグメント利益56.4%減だったが、パソコン向けタンタルコンデンサが売上を伸ばしている。4~6月期は大底でも7~9月期はコロナ禍による打撃からの回復過程で、特に自動車分野の回復が10~12月期も継続する見込みということで前途に明るい光がさしている。
 
 ロームは4~9月期の決算発表と同時にそれまで未定だった通期の業績見通しを公表した。売上高は前期比6.3%減の3400億円、営業利益は22.0%減の230億円、経常利益は35.7%減の230億円、当期純利益は25.9%減の190億円で、減収減益予想ながら足元の業績回復で悲観的な見方は後退している。予想期末配当に修正はなく前期比据え置きの75円。予想年間配当も前期比据え置きの150円となっている。
 
 ロームの通期の設備投資計画は460億円だが、4~9月期は119億円と手控えられた。その分、下半期は差し引き341億円、上半期の約2.8倍の設備投資の発動が見込まれる。セグメント別の通期設備投資額では、LSIが前期比95%増、モジュールが61.2%増を予定しており、2021年度以降の経営戦略、商品戦略とリンクしていると思われる。LSIでは「高性能汎用ASSP」を軸に商品開発を進めるとし、パワーデバイスでは「Si-MOSFET」および「SiC」を中心とした売上成長を狙っている。特にSiC製品は、EU、中国、日本が「2050年までにカーボンニュートラル(温暖化排出ガス実質ゼロ)実現」で足並みを揃えて産業基盤整備を急ぐ「xEV」(HEV、PHEV、EV、FCVなど電気を動力源とする自動車)という21世紀前半の超大型市場に供給される。すでに複数社のxEVへの採用、供給が始まっており、SiC-MOSFETの売上予測は2025年度までに約5倍。2020年12月には生産能力増強のためのSiC新棟(福岡県のローム・アポロ筑後工場新棟)が完成するなど、市場拡大に向けた準備が着実に整えられている。

■村田製作所は通期最終減益見通しを増益に変更

 村田製作所の4~9月期決算(米国基準)は、売上高は1.2%減の7520億円、営業利益は8.3%増の1315億円、税引前四半期純利益は6.7%増の1331億円、四半期純利益は10.1%増の998億円の減収増益決算で、当初見通しは減益だったが増益に変わって着地した。中間配当は前年同期比8円増配の55円としている。4~9月期最終利益の通期見通し(上方修正済み)に対する進捗率は52.8%である。
 
 電子部品セクターもコロナ禍による4~6月期の大幅悪化から、中国、アメリカ、ヨーロッパでの生産活動再開で7~9月期には回復するパターンだった。日本国内ではリモートワークやオンライン教育のような「巣ごもり需要」によってパソコン向けが好調で、5Gの立ち上がりでモバイル基地局向けも堅調。一時は世界的に落ち込んだスマホ向けも7~9月期には回復傾向がみられる。自動車向けもメーカーの生産再開で7~9月期に生産台数は世界的に回復しているが、その部品需要は全体的に低迷から脱しきれていない。村田製作所の製品では主力の積層セラミックコンデンサがパソコン、基地局向けで堅調だったが、自動車向けの電子部品やスマホ向けの樹脂多層基板、リチウムイオン二次電池は4~6月期の落ち込みから抜け出せなかった。為替の円高の影響も受け中間期の全体の売上高は微減となった。一方、利益のほうは生産回復に伴う操業度アップ、前期に計上した減損損失の反動減、原価低減、固定費負担の軽減などの増益要因が価格低下や円高の影響などの減益要因を上回り、減益予想をくつがえす増益で着地している。
 
 製品分野別の前年同期比売上高は、コンポーネントは0.0%増(微増)、モジュールは3.8%減。コンポーネント分野のコンデンサはパソコン、基地局向けが好調で5.5%増になり、他分野の売上減をカバーした。売上が伸びた製品にはコンデンサの他、IoT機器、パソコン向けの表面波フィルタやインダクタ、スマホ向け高周波モジュールなどがある。
 
 村田製作所は中間期での業績好転を受けて、4月に発表した売上高、利益3項目の通期業績見通しを全て上方修正した。売上高は当初予想を600億円上回る2.9%減の1兆4900億円、営業利益は当初予想を400億円上回る1.3%減の2500億円、税引前当期純利益は当初予想を400億円上回る0.8%減の2520億円、当期純利益は当初予想を390億円上回る3.3%増の1890億円で、最終利益の通期見通しが減益から増益に変わっている。スマホ向け電子部品の販売が想定以上に推移し、出遅れ気味の自動車向け需要もアメリカなど各国政府の景気刺激策が下半期に出てくると期待している。予想期末配当に修正はなく前期比5円増配の55円で、予想年間配当は前期比13円増配の110円。下半期の想定為替レートは1米ドル=105円、1ユーロ=112円としている。
 
 村田製作所の通期の設備投資額は期初に公表した2000億円のまま変更はない。スマホなどモバイル通信の5G化、カーエレクトロニクスの進展による部品搭載点数の増加を引き続き期待し、投資を行っていくという。ファーウェイ問題のような米中貿易摩擦やコロナ禍が落ち着きをみせれば、中・長期の拡大トレンドに乗っていけるだろう。(編集担当:寺尾淳)