不揮発性メモリの市場が拡大している。調査会社のグローバルインフォメーションのレポートによると、不揮発性メモリの市場規模は2020年から年平均9.0%の成長率で拡大し、2025年には836億米ドルに達すると予測している。
AIやIoTなどの先端技術を搭載した家電製品やモバイル機器の高機能化などを背景に、消費電力を抑えつつ、より高速なアクセスを実現するメモリデバイスに対する需要が高まっており、これが不揮発性メモリ市場全体を牽引するとみているようだ。
スマートフォンやパソコンなどが普及したおかげで、メモリという言葉はこの十年ほどの間で身近な単語になった。デジタル用語に詳しくない人でも何となく「データを記憶する装置」くらいのイメージは持っているだろう。デジタル機器を購入するとき、メモリ容量や書き込み速度がどれくらいかということを判断基準の一つにしている人も多い。しかし「不揮発性メモリ」と聞いて、ピンと来る人は少ないのではないだろうか。
メモリは揮発性と不揮発性の2つに大別することができる。例えば、コンピュータのメインメモリとして主に使用されているのは、DRAMやSRAMなどの揮発性メモリだ。これらは外部からの給電が途絶えると、記憶内容が失われてしまう。一方、不揮発性メモリは、USBメモリやSDカードなど電源が供給されていない状態でも記憶内容を保持できるメモリのことをいう。
不揮発性メモリと一口に言っても、用途によって様々な種類のメモリが存在している。USBメモリやSDカードなどに使用されるのは、大容量のデータを保持できるフラッシュメモリで、市場規模も非常に大きい。一方で、市場規模は小さいが、車載・産業機器分野で注目されているのが「EEPROM」だ。小容量だが書き換え回数が多く、過酷な環境下でも安定してデータを保持・書き込みできる。一般的にはあまり知られていないが、身近なものでは、カメラやセンサーの補正、電力メーターなどの使用電力量、エアバッグ作動履歴などのデータロガーの記録に用いられ、非常に重要なデータを保持する役割を果たしている。とくに自動化や電装化などが進み、安全やトレーサビリティへの要求が高まっている車載・産業機器分野での注目度は高く、需要が拡大している状況だ。車載カメラやエアバッグ、FA機器やサーバーなど、高い信頼性を必要とするアプリケーションで採用が進んでいる。
日本の半導体メーカーでは、ロームがEEPROM製品の新シリーズ「BR24H-5ACシリーズ」を発表した。新製品の最大の特徴は書き込み速度だ。ロームは独自のデータ書き込み・読み出し回路技術を駆使して、業界最速3.5ms(ミリ秒)の高速書き込みを実現。一般的なEEPROMの書き込み速度といわれる5msに対して、書き込み時間を30%削減することに成功した。例えば、電子機器の製造工程で10万台に256Kbitの初期データ書き込み(512回の書き込み処理)を行う場合では、工場のライン占有時間を約1日も削減することができるというから驚きだ。また、書き換え回数も一般品の4倍の400万回を保証しており、頻繁にデータを書き換えなければならない状態記録用途にも適しており、非常に高い信頼性が求められる車載規格にも対応している。
実は、ロームは20年以上も前からEEPROMの開発に力を入れており、自社で特長ある高信頼メモリセルを開発するなど、高品質のEEPROM製品を提供して国内外の各分野で高い評価を受けているメーカーなのだ。USBメモリやSDカードのように我々一般的な消費者の目に触れる機会はほとんどないメモリだが、現代社会を支える重要な技術が、地道な努力によって築かれてきたと思うと胸が熱くなる。(編集担当:藤原伊織)