近年、自動車産業においては、国内外のメーカーやサプライヤー間での技術開発協力が盛んに行われている。その背景には、自動車のデジタル化やエレクトロニクス化による製品技術の複雑化や多様化、新興国市場の急速な経済発展と消費市場の変化と拡大、またそれらに伴う知識や迅速な対応力の必要性が高まっていることなどがある。自動車産業は今、百年に一度ともいわれる変革期だ。熾烈な競争に勝ち残るためには、すべてを自社グループだけで完結させる経営方針は、もはや時代遅れと言えるかもしれない。今後はますます、業界の枠を超えて積極的な協業体制を構築し、必要な技術や知識をシェアし合ったり、創り出したりすることが求められるようになるだろう。
例えば、自動車メーカーのSUBARUは、ソフトバンクと共同で安全運転支援や自動運転制御に関わる共同研究を進めている。この研究では、局地的に電波品質の高い5Gを提供することが可能な可搬型設備「おでかけ5G」や高精度測位サービス「ichimill(イチミル)」による車両位置情報の取得など、ソフトバンクの技術を活用した実験や検証が行われており、昨年末には合流時車両支援の実地検証に世界で初めて成功している。
SUBARUはまた、トヨタ自動車と共同でEV専用の新しいプラットフォーム「e-TNGA」を開発している。両社発表によると「e-TNGA」は非常に汎用性の高いプラットフォームで、様々な駆動方式に対応する上、バッテリーやモーターなどによるクラス分けも容易だという。
今後、6つの新型モデルに採用が予定されており、その第一弾として新型SUVの開発が進められていると以前から噂になっていたが、3月15日にトヨタの欧州部門がコンセプトカーのティザー画像を公開したことから、今年4月開催の上海モーターショーで初お目見えとなることが予想されている。
また、車載用半導体部品を幅広く手掛けるロームは、2018年頃から、中国最大の車載エアコンメーカーであるSanden Huayu Automotive Air-Conditioning Co., Ltd.社(以下、Sanden Huayu)との技術交流をはじめ、ロームの先進的なパワーデバイスを搭載した車載アプリケーションの開発で協力関係を築いている。既にパワーデバイスを採用した電動コンプレッサーが量産されるなどの成果を上げているが、革新的なソリューション開発を加速させるため、中国・上海のSanden Huayu本社内に「技術共同実験室」を開設した。この共同実験室には、車載エアコンを中心とした車載アプリケーションやデバイスの評価ができる装置など、重要な機器が導入されており、両社は今後も協力関係を強化していく方針のようだ。
モビリティに関わる産業や社会の新時代に向けて取り巻く環境が大きく変化し、産業自体が大きく変わろうとしている。それぞれの分野で培ってきた技術開発をいかし、連携することで新しい価値を創出することが不可欠になっていくのではないだろうか。今後のモビリティ社会の未来が楽しみである。(編集担当:今井慎太郎)