開催に強硬姿勢の主催者(IOC、IPC、都、組織委)に総理として『物申す』ことなく「国民の命や健康を守り、安全・安心の大会を実現することは可能」というのであれば開催国代表としての説明責任を果たすことは最低限、必要だ
菅義偉総理は東京五輪大会開催まで70日を切った14日の記者会見で「国民の命や健康を守り、安全・安心の大会を実現することは可能と考えており、しっかり準備していきたい」との発言を繰り返した。
昨年、五輪を1年延期したが、新型コロナウイルス感染症の感染抑止ができず、第1波から2波、3波を繰り返し、今度はより感染力の強い「イギリス型変異ウイルス」感染拡大に加え、「インド型変異ウイルス」も懸念される『4波』に入っている。
深刻な医療崩壊危機の中、「国民の命、健康」をさらに危険に晒すことになる『東京五輪・パラリンピック大会』開催に固持するなら、菅総理は安全・安心で開催できると国民が納得できる具体的な制度設計を示すべきだ。総理は医療現場の専門家からの要望書や意見に「見ざる・聞かざる」で五輪を強行させてはならない。
「全国医師ユニオン」は13日「五輪開催は危険な変異株ウイルスの結集と拡散、新たな変異株ウイルスを生む環境を作り出すことになる」と懸念を示し「これまでにない危険な変異株ウイルスが出現した場合には『東京オリンピック型ウイルス』として、世界の人々を苦しめることが強く危惧される」とまで断言し「コロナ禍において安心・安全なオリンピックの開催などありえない」と心の叫びを綴った要請書を総理宛に提出した。
医師らは「ワクチン接種率が低く感染拡大が続いている国には世界のスポーツ選手を招く資格はなく、現在の政府の姿勢は各国の選手に対して、極めて無責任で失礼。国民に自粛を求め深刻な被害を強いていながらオリンピックのみを例外にすることなど許されることではない」とも訴えている。
それでも開催に強硬姿勢の主催者(IOC、IPC、都、組織委)に総理として『物申す』ことなく「国民の命や健康を守り、安全・安心の大会を実現することは可能」というのであれば開催国代表としての説明責任を果たすことは最低限、必要だ。
日本が開催拒否した場合の経済的・心理的損失、開催した場合のメリット・デメリットなどを、総理もしくはJOCや組織委員会から説明してもらい、コロナ第4波の只中にある日本国民を納得させる必要がある。
オリンピック開催まで70日を切った中で16日から『緊急事態宣言』対象が東京・大阪・京都・兵庫・福岡・愛知に加え、北海道・岡山・広島まで拡大される(期間は5月31日まで)。まん延防止等重点措置地域も埼玉・千葉・神奈川・愛媛・沖縄・岐阜・三重に加え、群馬・石川・熊本が追加される(期間は6月13日まで)。
緊急事態宣言もまん延防止等重点措置もエリア拡大しなければならない事態の中、開催までに収束が図れるのか、また安全をどう担保するのか。高齢者へのワクチン接種さえ、7月末までに完了させる目標が早くも251市区町村は8月~9月以降になると厚労省・総務省調査に回答している。接種にあたる人材確保問題など現実に課題がある。
菅総理はこのデータに「ショックだった」と記者団に13日語った。立憲民主党の蓮舫代表代行はこの総理発言報道に、ツイッターで「積み上げて実現可能とした目標でないことの方がショックです、菅総理」と実現への裏付けに基づかず、期待値で語る総理に苦言を呈した。
東京五輪・パラリンピックを安全・安心な大会にするとの総理の言葉が「期待値」で言われてはたまらない。感染拡大を招きかねない以上、期待値では決して許されない。安全をどのように担保しているのか、説明責任を果たすことが強く求められている。
東京五輪の安全性への懐疑は参加予定国からも明確に示されている現実がある。米国陸上チームは千葉で予定していた事前合宿を中止にした。また大会参加予定の国や地域の選手団による事前合宿や住民との交流は15日までに45自治体で中止になった。32自治体が参加国側からの辞退だったという。安全面を懸念した判断という。
政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は14日の記者会見での記者団の質問への答弁で「一般医療に支障が来て、救急外来も断らなくてはいけない、必要な手術も断らなくてはいけない、しかも命に非常に直結するようなところまでという状況になっている」と強い危機感を示した。
国内がこのような状況であるにもかかわらず、菅総理が「国民の命や健康を守り、安全・安心の大会を実現することは可能」と繰り返しても何の説得力もない。安全安心を担保する科学的・合理的な裏付けある説明が求められている。(編集担当:森高龍二)