認知症など脳萎縮、細胞死ではない。脳内コレステロール合成不全。宮崎大・東大などが解明。創薬に期待

2021年08月01日 08:14

画・認知症など脳萎縮、細胞死ではない。脳内コレステロール合成不全。宮崎大・東大などが解明。創薬に期待。

宮崎大学、東京大学、東邦大学、富山大学並びに理化学研究所などの研究グループが脳の萎縮メカニズムは細胞死ではなく脳内コレステロールの合成不全であると解明。今後、創薬に期待。

 人間の脳は加齢により細胞死をおこし萎縮するといわれる。認知症やパーキンソン病のような精神・神経疾患ではこの細胞死が顕著に生じ認知・運動機能の不全を引き起こすと言われている。細胞死のため不可逆的で完治というのは不可能と言うことになる。しかし、細胞死だけでは脳の体積変化を説明できない。このことについて宮崎大学、東京大学などの研究グループが老化や脳神経疾患などで起こる、脳の萎縮を説明する細胞死ではないメカニズムを解明した。

 7月23日、宮崎大学、東京大学、東邦大学、富山大学並びに理化学研究所などの研究グループが「老化や脳神経疾患などで起こる、脳の萎縮に関係する新しいメカニズムを世界で初めて明らかにした」と発表した。これによれば、脳萎縮の原因は、老化や多くの脳神経疾患に共通して見られる神経細胞での小胞体の品質低下であり、具体的メカニズムとして脳内コレステロールの合成不全を発見、コレステロール合成に重要な経路としてDerlin-SREBP-2経路が重要であることを解明した。

 認知症、パーキンソン病などの脳神経疾患では脳の萎縮が広く認められており、萎縮の原因は細胞死(神経細胞の脱落)と考えられてきたが、細胞死だけでは脳体積の減少を必ずしも説明できなかった。一方で、脳神経疾患の状態にある「病態脳」では、多くの場合、神経細胞内の細胞小器官の一つでタンパク質合成に関与する小胞体にストレスがかかっていることが分かっていた。そこで、研究グループは、マウスを用いて脳内で小胞体ストレスを誘導する動物モデルを作製、脳萎縮の分子メカニズムを分析した。

 Derlin遺伝子欠損マウスを用いた実験により、小脳で SREBP-2 の活性化が阻害されており、このため小脳内のコレステロールの総量が減少していることを突き止めた。さらに、Derlin を欠損させた培養神経細胞で見られる樹状突起の短縮は人為的なREBP-2 の活性化により抑制できることを発見、Derlin によるSREPB-2 活性制御を介したコレステロール合成が脳神経細胞の重要な役割を担い、その破綻が脳萎縮に繋がるという新たな分子メカニズムを解明した。

 本成果および今後の研究の発展によりDerlin?SREBP-2が新たな治療標的となり創薬にも繋がると期待される。(本研究成果は、宮崎大学の西頭英起教授、東京大学の一條秀憲教授らによるもので、7月23日付けで米国学術雑誌「iScience」に掲載されている。)(編集担当:久保田雄城)