欧米主要先進国では新型コロナ・ワクチンの必要回数接種の人口割合が約50%に達している。しかし、デルタ株の広がりによって再び感染者数は増加傾向にある。にもかかわらず、欧米各国では行動制限が緩和・撤廃され、社会・経済の正常化が推し進められ、今後高い経済成長が期待されている。
現在、主要国で用いられているmRNAワクチンは疑似感染を生じさせることで細胞性免疫を活性化し、体内でのウイルス増殖を抑制し重症化を抑えるのが主な機能だと言われる。従来の生・不活化ワクチンのように抗体を産生し感染それ自体を抑えるものとは違うようだ。新型コロナが危険なウイルスであるのは、発症早期に体内ウイルス量がピークに達し抗ウイルス剤が効かなくなるためと言われるが、ワクチン接種によりピークに至るまでの時間を稼ぎ、治療スキルの向上と相まって十分治療可能な病気になったとも考えられる。これが、一見矛盾する感染者の増加と行動制限の緩和・撤廃の動きの背景ではないだろうか。
米国では3月のバイデン大統領によるワクチン接種加速の宣言によって個人向け消費に対する投資も一斉に動き出した。8月4日に公表された日本総研(日本総合研究所)のレポート「アメリカ経済見通し」によれば、米国では「ワクチン接種の進展とともに、活動再開が進み、景気が回復している」、「個人消費については、貯蓄取り崩しによるリベンジ消費が顕在化することに加え、雇用・所得環境の改善を追い風に、堅調に推移する見通しである」となっている。これを踏まえ「21年の実質GDP成長率は6.3%と、1984年以来の高成長になる見通し」で、各種財政出動と相まって「潜在成長率を上回る高めの成長ペースが持続する見込み」のようだ。
同じく日本総研の8月6日に公表された「欧州経済見通し」によれば、「21年の後半にかけては、これまでの活動制限で積み上がった貯蓄が取り崩されるかたちでリベンジ消費が本格化」、「ワクチンパスポートによるインバウンド需要の回復が景気回復のけん引役となる見通し」となっており、やはり「リベンジ消費」に牽引された高い持続的成長が期待されている。また英国では「急速なワクチンの普及や積極的な財政政策が功を奏し、2021年末にもコロナ禍前の経済活動水準を回復する見通し」のようだ。
医療系レポートは感染力を増した変異株の登場で暗い見通しを示している一方で、経済レポートは明るい見通しを示している。治療体制が脆弱なままの日本でワクチン接種普及により欧米同様の回復が見込めるかは懐疑的だ。(編集担当:久保田雄城)